つるつるつらつら。

ボカロ関係で想ったこととかを主に綴ります。

今までに書いたすべてのお話を振り返ってみる記事

  もう2週間も前になりますが、先日はじめて長編(と呼べるか微妙なラインですが)を最後まで書き上げることができました。お話を書き始めて4年以上経つのにね。というわけで自分でお祝いするための足あと振り返り記事です。

 

1.VRMMO運営さんの業務日誌

URL:https://ncode.syosetu.com/n6032cv/

ジャンル:VRMMOもの

種別:連載、完結済み

連載時期:2015年8月23日~2015年8月27日

掲載状況:『小説家になろう』に掲載中

文字数・話数:21,526文字、7話

あらすじ:寒川良人(さむかわよしと)は、VRMMO「クワドレートオンライン」の運営チームに所属する28歳。同僚や、身勝手な要求と筋違いな批判をしてくるプレイヤー達に翻弄されたり大ポカをやらかしたりしながらも、彼は持ち前の熱さとゲームを愛する心で真っ直ぐに生きていく。そんな感じの短めなお話。(以下、小説投稿サイト掲載中の作品についてはそこのあらすじから引用)

 

 なんで小説を書こうと思ったのか全然覚えてないんですよね。あのころはすっかり大学の受験勉強してる時期だったのに、なにがどうしてそうなったんだ。『小説家になろう』の作品も『ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける』くらいしか読んだことなかったし。ネタが降ってきたからってだけな気もしますけどね、今と同じで。

 余談ですが、ちょうどこれを書いてすぐくらいに、小学校からの同級生も『小説家になろう』で書いてることを知って話が盛り上がりました。ちょっとチャラくてキツネ目で、小説のこと以外はあまりそりが合いませんでしたが、悪いやつじゃなかった。

 今ではもうさっぱり連絡とってないけれど、彼、今でもコンスタントに小説書いてます。私とは比較にならないほどの速度です。たまになろうのアカウント覗くと、なんだか嬉しくなりますね。

 

 まあそんなこんなで、降って湧いたネタを勢いでこねこねしたら出来上がった作品です。なろうで人気のジャンルをまっすぐ書けずに、変な角度からひねっちゃう感じ。優しい話を書くスタイル。今と変わってないですね。変わったのは文章力(あいまいな概念)くらいかな。今は技術も経験もある程度詰めた実感がありますが、これははじめての作品なのでやっぱりそのあたり粗が目につきます。

 あと文体は竹井10日さんという好きなラノベ作家を中途半端にまねしようとしたせいで大変なことになっていますね。地の文が饒舌に語り出すやつ、扱いむずかしいのがわかったので私が使うことはもうないと思います。

 欠点に目を向けるといくらでも言えちゃうなのでごにょごにょしますが、最後の数段落は気に入ってます。「ここは好き」とかでいいので、せめて自分の作品は自分で愛してあげたいなあ。

 にしても、5日間で2万字強書いてる当時の私、なにがあったんだ。夏休みで塾漬けだったはずなんだけど。たぶん書くの楽しいって気づいたからなんでしょうね。今では月に2~3万字が限界です。

 

余談Part2:『VRMMOの運営さん』というタイトルのなろう作品が別に存在することをあとで知りました。

 

2.こちら恋愛相談室!

ジャンル:現代ラブコメ

種別:連載、未完

連載時期:2015年9月~2015年11月

掲載状況:削除済み(なぜか2~7話のデータだけ持ってる)

文字数・話数:約3.6万字、12話

ざっくりしたあらすじ:読書好きで物静かな少女、莉紗(りさ)。恋をしたこともないのに、ある日友人2人に誘われて女子限定の恋愛相談所(お題はスイーツひとつ)を一緒にやることになる。調査を進める中で、同学年の目立たなくて陰気そうな男子、俊哉(しゅんや)と接点を持つことになって……。他人の恋愛相談を解決しながら、波乱万丈な初恋も解決だ!

 

 

 一番の黒歴史『VRMMOの~』を書き終わってわりとすぐ始めた話ですね。

どうしてこれが黒歴史なのか。それは……!?

 

 主人公(女子)とお相手のモデルが私と初恋の人だからです。

 

 その初恋の人には告白して丁重にお断りされました。お友達になりました。叶わなかった恋のIFを一次創作でやるな。

 作品の出来が客観的に見て褒められたものではなかった(登場人物多すぎる上にみんな薄い、ギャグが滑っている、圧倒的にエピソード足りてないのに2人の距離がけっこうな速さで縮まっていく,etc…)というのもあり、つらくなって消してしまいましたね……

現代ラブコメは遠くないうちにリベンジしたいなと思っています。

 

余談:同性の友だちを好きになったかもしれないという内容の相談をしにくるキャラがのちのち出る予定だったので、作品にガールズラブのタグをつけていました。そしてあらすじには、相談所をやる中で主人公が初恋に落ちていく旨を書いていました。その相手の性別を明記せずに。

 ところで、なろうでは『その日、作品の各話にそれぞれ何人がアクセスしたか』を解析できます。何日も続けてみていくことで、どこで読者さんが脱落しやすいかなどが浮き彫りになってくる。そしてこのお話、お相手が出てくるのがたしか3話で、3話から4話の間でガクッとアクセス人数が減るという傾向が。

 ガールズラブ、期待されていたんでしょうね……

 大変申し訳なくなりました。あらすじも相手の性別がわかるように変えました。というお話でしたとさ。

 

3.猫たちの墓場

URL:https://ncode.syosetu.com/n6032cv/

ジャンル:純文学×SF

種別:短編

投稿日:2016年2月21日

掲載状況:『小説家になろう』で掲載中

文字数:2,156文字

あらすじ:寿命を迎えようとしている飼い猫のよもぎは、最後の力を振り絞って、近辺の猫が最期を迎えるために使う場所へと向かった。そこでまさに命を終えようとしたその瞬間、猫の精霊を名乗る存在が現れ「お前の飼い主のために1つ願い事をしないか」と告げる。よもぎは何を願ったのかーー。

 

 完全に受験真っただ中。前期試験の前後あたりだったのになぜか書いてた短編です。これもネタ思いついたがいなや勢いで書いた覚えがあります。ベッドに転がりながらスマホでぽちぽちやってましたね。

 内容についてはあまり語るところがないかなあ。ややSFチックなほっこりするお話です。少年が都合よく事態を察しているのが気になるくらいで、けっこうお気に入り。

 

4.追放勇者の異世界放浪記

ジャンル:異世界召喚ファンタジー

種別:連載、未完

連載時期:2016年5月~2016年9月

掲載状況:削除済み(データ持ってない)

文字数・話数:約4.8万字、11話

ざっくりしたあらすじ:平凡な(本当に平凡な)大学生の主人公(名前忘れた)は、異世界の王国、レダフ王国に召喚される。かつてこの地に滅亡をもたらす存在(名前忘れたその2)が現れ、死闘の末に封印された。しかし、その封印がそろそろ解けそうだ。この異世界が危機に陥った際、星自体の意思で別世界から召喚される切り札。それが主人公たち『星呼びの御子』。

救世主として盛大に歓迎され、王国とパイプのある元英雄のもとで鍛錬に励む。主人公におともしたいと自ら志願してきたドワーフの少女、リコッタとともに。しかし、元気いっぱいな彼女はなにかを隠しているようで……実は、中級貴族の娘として生まれた彼女だったが、両親は無実の罪を着せられて処刑されてしまった。リコッタは彼らの遺志を継いで、一発逆転を狙っていたのだ。未来の救世主の仲間になることで。

順調に経験を積んでいた主人公は、滅亡をもたらすryの眷属『憑蛇タルバティッカ』が侵攻してきたのを迎撃する戦いに駆り出される。見事討伐した彼らだったが、主人公はタルバティッカの核に寄生されてしまう。本体を倒しても核を破壊しなければ、核は強者にとりついてその力を得ることで、そのうち復活してしまうのだ。それも、以前よりひと回り強大になって。憑蛇と呼ばれし所以は、そこにあり。

しかし、事態はそれだけではとどまらない。『星呼びの御子』としての、異世界人とは違う特異体質が悪い方向に作用した。

完全に乗っ取られはしないし、人間としての姿も保つ代わりに、ときおり前触れもなく暴走する。それも人間としての知性と魔物としての力を合わせ持って、通常寄生された場合よりも凶悪に――

化け物として一思いに討伐するのもためらわれ、さりとて放っておけば滅亡をryが復活する前に世界が滅ぶだろう。そんな怪物になってしまった主人公。殺したくはないと、王国からは慈悲をもって追放されることになった。けれど、他国は彼の存在を許さないだろう――

ひとり逃亡し、どうにか己の中の怪物を抑え込む方法を探ろうと決心する主人公。リコッタに別れを告げようと会いに行くが、彼女は純粋な眼で「ついていく」と宣言し――

これは、『禍憑きの御子』と呼ばれるようになる主人公と、お付きの少女の逃避行。そして、世界を救う物語。

 

(思い出しながらあらすじ書いてたら楽しくなっちゃった)

 

 タイトルでわかる人もいると思いますがウケを狙いました。流行りに乗ろうとしました。『小説家になろう』というサイトで評価されるために。主人公がなにかの力によって異世界に転移したり、死んだと思ったらそちらの世界に転生したり。そうして、強い能力を得て活躍する。当時のなろうは特に、そういう作品が流行っていました。今はまた、ちょっとだけ違う感じですけど。

 けれど、そのころの私はまだ、そういう作品で好みのものがそんなになかったし、どちらかと言えば敬遠していました。なんでそう思っていたのか、確かに理由はあったけど今となってはほぼ覚えていません。けれど、書こうとした。読まれたかったから。

 そこまで好きでもないジャンルを無理に書こうとして失敗したのがこの作品です。変に逆張りした結果、こういったジャンルの定石(とでも呼ぶべきもの)から外れ、結局あまり読んではもらえず、かといって自分好みにもならず、書くのが苦痛になり削除した。そんな覚えがあります。お話自体は地味だけど悪くなかったと思っていますが、書いていて楽しいのとはまた違うので。

 主人公に剣以外の武器を使わせようとして、特に物語上の理由なくコルセスカという槍の一種の長柄武器を持たせたり。主人公の能力をかなりトリッキーかつ半端な強さにしたり。元気かわいくて腹黒系でもないヒロインがなぜか目論見を持って主人公に近づいてきたり。逆張りばっかりしてました。

 異世界転移or転生ものもいつかリベンジしたいですね。バトルシーン書いてみたい。この作品以外でまともに書いたことがないんです。

 

5.正夢令嬢による猟奇的ざまぁ

URL:https://ncode.syosetu.com/n6032cv/

ジャンル:婚約破棄もの・ハイファンタジー

種別:短編

投稿日:2016年12月9日

掲載状況:『小説家になろう』で掲載中

文字数:7,593文字

あらすじ:見た夢が二週間後になんでも現実のものとなるという能力を持つ、とある小帝国に住む伯爵令嬢のシャンテル。ある日彼女は、生まれて初めて悪夢を見てしまう。何種類もの植物を乱雑に束ねたような姿の怪物が、帝国を蹂躙するという夢を。それからほどなくして、婚約者である侯爵三男のフェリックスから、突然理不尽な婚約破棄を言い渡されてしまう。その場は破棄を受け入れて平然と対応するシャンテルであったが、自らが置かれている状況を利用して盛大に仕返しをする計画を立てるのだった。

 

 (ざまぁとは、スカッとジャパンです。まじめに説明すると、悪者が報いを受けることです。web小説などでは物語の展開のひとつとしてよく使われる言葉です。主人公が強さを発揮するのと相性がいいので)

 

 今までなろうに投稿した作品(削除済みのもの含む)で、もっとも評価ポイントが多いのがこの作品です。でも黒歴史

 このあとで語る予定の『姫護りの半端騎士』という作品(当時はまだ構想段階)が自分の中では本命で、それを多く読んでもらうために私という作者のファンになってくれる方を増やしたかった。そんなよこしまな目論見のために、なろうで強い勢力を誇る婚約破棄もの、ざまぁものを書きました。今までそんなに読んでこなかったのにね。

 またしても正面から取り組まず変な方向にひねってしまって、ただ残虐なだけで爽快感のない、ターゲットを見失った作品ができました。タイトルとジャンルのおかげで今までとは比べ物にならないほど読んでいただけましたが、評価としては低いものだったと思います。

 なろうには文章とストーリーの2項目にそれぞれ最大5点のポイントを入れて(つまり最大で10ポイント)評価できるシステムがあるのですが、ある程度以上の評価を入れられている作品はたいがいどちらも平均4点以上、合計で8点以上あります。ネット掲示板などでよくネタ扱いされてしまっているような作品でも、です。

 私のこの作品は平均文章評価3.5点、平均ストーリー評価3.3点で、合計平均6.8点です。これがどれだけ低いか、お分かりいただけたでしょうか。

 流行りの皮をかぶって読まれても、中身が読者に対して不誠実ではいけないと、強く心に誓いました。

 

6.過去を慈しむ灯のもとに(UTAU滲音かこい二次創作) 

 

URL:このブログ内に掲載しているので省略(横着ともいう)

種別:短編

投稿日:2017年1月26日

掲載状況:当ブログ『つるつるつらつら』と『pixiv』で掲載中

文字数:9,723文字

あらすじ:あるキャラクターのことが大好きな人の前に、実際にそのキャラクターが現れる――そんな現象がまれに報告される世界。そんな世界に暮らすかこいちゃんとマスターの、お誕生日のお話。

 

  滲音かこいちゃんのお誕生日に合わせて(ちょっと遅刻)書いたマスター×かこいちゃんの短編です。このブログに掲載しています。

 そういう関係ではまったくないですが糖度は高め。さっき読み返してちょっと目まいがしました。でもかこいちゃんはかわいく書けたし、ほっこりする話になっていると思います。ちょっとだけ世知辛い感じなのもすき。お気に入りです。

 ケーキのくだりとか、タイトルとか、ちょこちょこネタも挟みました。

 来年の4月、京都で開催されるボーカロイドオンリーイベント(即売会)、『VOCALOID STREET』にて頒布予定のかこいちゃん短編集『滲色平月』(にじいろへいげつ、と読みます)にちょっと書き直して収録予定です。

 はじめての即売会、海石さん(@sycauite_ikuri)と一緒に出ます。まだ先の話だけどよろしくね(ダイレクトマーケティング)  

 

7.姫護りの半端騎士~鏡使いは真の英雄に成り上がる~

 

URL:https://ncode.syosetu.com/n6032cv/

ジャンル:ハイファンタジー

種別:連載、未完

連載時期:2017年5月19日~2017年6月25日

掲載状況:『小説家になろう』で掲載中

文字数・話数:24,656文字、7話

あらすじ:巨大な聖樹になる果実から生まれ、それぞれ固有の権能を持つ希少種族『樹聖者』がいる世界。その樹聖者であり、『鏡』の力を持つ騎士アントンは、ある日突然所属する騎士団から暇を出される。原因は、彼の住む国の第三王女で、自由奔放かつドジの多いことから《駄犬姫》とあだ名されるクラリサ殿下。彼女が王家を飛び出してまで冒険がしたいというので、その護衛としてアントンに白羽の矢が立ったのだ。当座の目的地は、非合法組織の拠点になっていると噂の鉱山都市。
周囲の持ち上げぶりと自分の能力の乖離に悩む、武器を振るうことだけが生きがいの騎士と、英雄願望のあるバーサーカー気質な王女殿下が織りなす冒険譚。

 

 

 読まれるのを諦めていないのがわかりますね。このころになると、異世界への転移や転生のないハイファンタジーで主人公最強な作品が勢いを増していた気がします。なおこの作品の主人公は中途半端な強さです。またか。

 今回こそはエンタメを追求しようとコメディ色の強い明るい話を目指したはずなんですが、たった7話でどシリアスに転げ落ちてしまって書けなくなり、投げ出してしまいました。どうしてこうなった。『英雄の資格』という重いテーマを根幹に据えたからです。初手から詰んでいましたね。

 作品自体はけっこう好きです。キャラクターが立っているのとか、掛け合いとか。技術的に苦手にしている要素が、ここではそこそこできている気がして。

 

余談:実は『正夢令嬢』の数百年後の未来のお話という裏設定がありました。『正夢令嬢』ラストのあれがこの作品のあれです。そちらの主人公も守護霊のような形で『姫護りの半端騎士』に出てくる予定でした。そこまで行く前に投げ出しちゃったけど。

 

8.書き出し祭り・かざコン参加作たち

 

第一回書き出し祭り『実況ちゃんだって闘いたい!』

URL:https://ncode.syosetu.com/n6933en/35/

ジャンル:異能力学園もの(ローファンタジー)

結果:第三会場17/38位(同率)

 

 第二回 〃 『家を追い出されたけど、幸せの壺のおかげで開いた食堂が順調です!』

URL:https://ncode.syosetu.com/n7335er/22/

ジャンル:ハイファンタジー

結果:第四会場25/30位(同率)

 

第四回 〃 『それでも先生と結ばれたい』

URL:https://ncode.syosetu.com/n7188fb/27/

ジャンル:恋愛×ディストピアSF

結果:第四会場7/30位(同率)

 

第二回かざやん☆かきだしコンテスト!『彼女は僕を見ていない』

URL:https://ncode.syosetu.com/n1173fl/17/

ジャンル:現代恋愛(のつもりだったけど、ホラーでは?というご感想を複数いただきました)

結果:12位以下/21位(上位11作品までの発表だったため。発表の中になかったのでそれ以下なのは確実)

 

 

 書き出し祭りとは、小説家になろう上で定期的に開催されている、ラノベ作家の肥前文俊さん(@HizenHumitoshi)主催の個人企画です。応募に集まった先着100人が『連載の第一話』を想定した3200~4000字の書き出しを執筆し、匿名で一斉に公開する。25作ずつ四つの会場に分けられて、読者は各会場で上位3つまで気に入った作品に投票し、後日結果が発表される。そんな企画です。読み手を引き込むための冒頭づくりが鍛えられます。

 かざやん☆かきだしコンテスト!(以下かざコン)とは、書き出し祭りが人気企画ですぐに100の枠が埋まってしまうため、そこに入れなかった人たちの救済としての一面もあり開催された、秋原かざやさん(@arunan0603)主催の個人企画です。レギュレーションは基本的に書き出し祭りに準じていますが、上位入賞者はイラストレーターの方に作品の挿絵を描いてもらえたり、参加者同士での対談などの企画があったりと、書き出し祭りとはまた違った趣向が凝らされています。

 私は過去、これらに計4回参加しています。今後行われる第八回書き出し祭りに参加することが決まったので正確には5回目ですが、過去です過去。かるーく振り返っていきましょう。

 

①.実況ちゃんだって闘いたい!

 前から温めていたネタを、上位とか考えずとにかく形にしたやつです。異能力学園もののラノベ、数年前に次々アニメ化されてたような気がします。それくらいには一大勢力ですが、焼きそばさんはまた変なひねり方してますね。このジャンル、特に学園内外でのトーナメントが描かれる作品によく出てくる実況の女の子が主人公です。

 改行がかなり少なかったり冒頭から長台詞だったりで読みにくいという意見が多かったし自分でもそう思いますが、会場内で真ん中あたりと一定の評価はいただけました。好き嫌いが分かれたぶん、発想と個性を高評価された方もいたのだと思います。

 連載はしないです。お話の方向性をどうするかがむずかしくて。『実況の女の子』なので、どうやればその役割を放棄せず闘いという表舞台に出せるんだろうというところに自力では答えが出せなかった。

 

家を追い出されたけど、幸せの壺のおかげで開いた食堂が順調です!

 前回は書きたいように書いたので、今度は広く浅くエンターテイメントをやることにしました。めざせ万人受け。

 女性向けにしつつ、男性にも読んでいただけるように。ポップで明るく、ドタバタチックに。昨今人気の追放されてからの逆転劇をベースに(しようとして追放とも呼べない優しい感じになったけど)、『幸せの壺』という独自のアイテムでフックを作る。読み手を強めに意識しつつ、ある程度自分の好きも取り入れて形にしました。惨敗しました。

「詰め込みすぎで説明不足」「展開が急すぎ」という意見が大半でしたね。読み返すまで自分ではまったく気づけませんでした。あと「『家を追い出された』は著しく語弊があると思う」というご感想もいくつか。焼きそばもそう思います。

 いつか連載したい気持ちはある。

 

③それでも先生と結ばれたい

 前回の反省を活かして、『自分の好きなものをより届きやすい形にパッケージングする』という方向性で挑みました。歳の差(男性が年上)と禁断の恋が好きなので、それが活きるシチュエーションって何だろうと思った結果のディストピアSFです。

 今までも〆切ギリギリマンになっていたのですが、この時は特にギリギリになってしまって、〆切の数分前に書きあがってそのまま推敲せずに提出、というエクストリーム執筆でした。本当に申し訳ない。そのため改善すべき点は多々あると自覚していましたが、結果としてはそこそこ上のほうに位置することができました。『これからどのような方向性で進むか』『売りはなにか』がはっきりしているのは強みなんだなあという学びがありましたね。そこは自信があった。

 連載はしないです。不妊について少し取り扱っていて、そこを誰も傷つけず丁寧に描き切れる自信がない。実際、不妊治療の経験のある方から「もうちょっと違う取り扱い方ができたのでは」(意訳)というご感想をいただいて……今でも悔やんでいます。申し訳ないと思っています。

 

余談:これは小ネタですが、主人公の名前について。

引地(ひきち)……不屈(ふくつ)を1文字ずつ前にずらしたもの。

柚希(ゆき)……行(ゆ)く、から。

 というわけで、あきらめずに前に進もうとする、彼女の姿勢を表していました。当然誰にも気づかれなかった。かなしみ。もっとわかりやすくしようね。

 

④彼女は僕を見ていない

 企画参加作4つの中で一番暗くて重い作品になりましたが、どうしてこれを提出しようと思ったのかはわからないです。思いついたものを書いただけかもしれない。

 構想から書き上げるまでかなり短かったのですが、どんより重い雰囲気は作れた気がします。内容が内容だったので、「書き出しとしての完成度は高いが自分の好みではない」というご感想を複数いただきました。ちょっと悲しかったですね。逆のほうが、たぶん私はしあわせでした。何度か企画参加したかいがあった、経験値は積めているということなので、嬉しいんですけどね。

 シンプルだけどふたつ目の意味があるタイトルで、実はお気に入りです。

 

余談:これも連載の予定はありません。ただ、上で触れた海石さんがこれを気に入ってくださったそうで、かこいちゃん短編集のおまけみたいな感じでちょっとした続きとともに収録するかもしれません。かこいちゃんを求めてきた人の求めるものではないと思うので悩んでいます。

 ほら、漫画の単行本にその人の過去の読み切りが付いていることあるじゃないですか。あれみたいなやつですよ。ええ。……冗談です。じっくり考えます。

 

9.ひな鳥探偵は謎を解かない

 

URL:https://ncode.syosetu.com/n9359em/

ジャンル:ヒューマンドラマ×(一応)探偵もの

種別:連載、完結済み

連載時期:2018年1月15日~2019年9月23日

掲載状況:『小説家になろう』『LINEノベル』で掲載中

文字数:99,588文字

あらすじ:1985年、東京郊外。『白鳥探偵事務所』に、日本中を騒がす無差別毒殺犯から手紙が届いた。それは「自分が関わったと断定された事件の中に、ひとつだけ冤罪がある。その真相を突き止めろ」という衝撃的な内容で。後ろ暗い依頼ならお任せあれ。青年探偵、白鳥 英樹と元依頼主の少女、美穂が華麗に謎を――解かない!? 俺はホームズじゃないからと、トリック解明などにはこだわらずに事態の解決だけを目指す。調査を進める中で、被害者と思われていた少年、健一の抱える問題が浮かんできて……
「普通の子でいたい。仲間外れはいやだ。それだけだったのに……!」
そして探偵と少女は、少年と似た悩みをもっているのに、考えることから逃げていたと自覚する。事件を通して1歩踏み出す、探偵ものの皮をかぶったヒューマンドラマ。

 

 

 冒頭でも書きましたが、私はつい最近までいわゆる長編を完結させたことがありませんでした。過去に3回挑戦して、全部投げ出してきました。(『VRMMOの~』は約2万字なので短編の域です)初めてお話を書いてから4年、ようやく完結できた長編がこれです。

 思いついたものを少しずつ少しずつ書いて、なんとかここまでたどり着けました。

 正直、とても地味な作品です。恋愛要素なし、ミステリと見せかけておいて、主人公たちの成長を描くヒューマンドラマ。物語を彩るサブキャラもほぼいない。雰囲気や文体も終始ちょっと重めで堅い感じ。

 今までで一番いいものを書けている自負はありつつも、自分の好みど真ん中かと言われると何とも言えない。書きたいと思ったものなのは事実でも。ほとんど更新できていなかった時期が一年ほどありました。

「また諦めてしまうのかな」

 そんな想像をしてしまったことは、一度や二度ではありません。でも、継続して読んでくださっている方のためにも、主人公たちのためにも、良い結末を見せてやりたい。気力を振り絞って書き切りました。

(最後のほう、がんばりすぎて食事をおろそかにしてしまった結果少し体調を崩したのは秘密です)

 作品自体のお話をすると、「人間を書くこと」を目標に掲げていました。心情描写に力を入れて、キャラクター達それぞれの気持ちや考え方と、それが移り変わるさまが書きたかった。上手くいったかはわかりませんが、力を入れたのは事実です。そこを褒めていただきもしたので、伝わってよかったなあと思いました。

 ですが、各キャラクターを魅力的にできたかどうかは、あまり自信がないです。ストーリーと心情の変化を書くための駒にしてしまった気がしています。今までの作品もだいたいそうなんですけどね。もっと精進します。

 ただ、間違いなく今までの集大成、今できる全力です。もしよければ処女作の『VRMMOの~』とこの作品を読み比べていただけると、成長の跡が見てとれるはずです。

 作家になりたいという気持ちは今のところない(万が一機会が巡ってきたなら、それは全力でやり遂げます)のですが、今の自分はどこまで通用するのかという力試し、現在地点の確認のためにどこかのレーベルの新人賞に出す予定です(小学館ガガガ文庫に出しましたが、応募フォームへの記載で大きな不備をやらかしたので弾かれていると思います)。そのために書き直しもしました。どんな結果であれど、そのうち報告できるはずです。

 ちゃんと完結している以上、これから読んでくださる人がいるかもしれないので、内容に触れがたいのがかなしい。ひとつだけ言うとしたら、当初から前向きに終わる予定だったけど、主人公たちの落としどころがああなったのは執筆の途中で決めたことです。正解だった、思いついてよかったと思っています。

 

余談Part1:もともと演劇部の公演用の脚本として考えていました。警察2人が捜査の中で、今の健一にあたるキャラのいる病室へ向かう、というお話として。今よりミステリしてますね。理由は忘れましたが没にして、こういう形になりました。

余談Part2:暗駄犬(アンダードッグ)という架空のチームが出てくるのですが、自分としてはかなりいいネーミングセンスだと思っています。

 

 

これからの私のこと

 

 長編を完結させる、という現時点でもっとも大きな目標は達成できました。それも、自分が書きたいと思ったものをやりたいように書いて。自分が読むための作品作りについては、ひとまず満足できました。自信もつきました。

 だから、今度は多くの人に読んでもらえるような作品を書きます。今度こそは、斜に構えず。どういうジャンルの作品のどんな要素が、なぜ人気なのか。そこをしっかりとらえて、納得したうえで取り入れて。でも自分の芯は譲らずに。

『ひな鳥探偵』を書く中で、自分の小説の芯になにがあるのか自覚することができました。それは、『現実を直視したうえで、できるだけ優しくあろうとすること。自分にとってのよき人、よい生き方を追求するのを諦めないこと』。思えば私自身も、そうあろうとしてきました。

 誰しもの中に悪はある。それでもどこかに優しさをもって物語を紡ぐのが、私の作風です。これからも、そういうお話を書いていきます。

 自分の芯にたどり着けたのも、はじめのころと比べて技術的に成長できたのも、すべては書き続けてきたからです。それを得られたのは処女作も最新作も変わらないし、投げ出してしまった作品たちも例外ではない。お気に入りかそうでないかは置いといて、どの作品も大切な私の一部です。

 私が紡いできたものと、それらを読んでくれる皆さんのことを大切にしながら、これからも書き続けていく所存です。お話を作るのがだいすきだと、今なら胸を張って言えます。

 

 

 

死がこびりついたまま、今日も椎名もたさんの曲を聴いている

 初めて聴いた椎名もたさんの曲がどれだったか、もう覚えてはいません。覚えていないということは、そのときの私にとってはもしかしたら鮮烈な出会い方ではなかったのかもしれない、ということなのだと思います。でも、今はあの人の曲がとても好きです。……そのはずなんです。

 今回は、ひたすらに後悔と自責の話しかしません。それでもよければ、続きをどうぞ。

 

勝手にさよーならしてしまった私と、唯一好きだった曲

 上でちらっと触れましたが、もたさんを知った時から曲を好きになったわけではあまりなくて。たしか『nee』が投稿されてすぐだったかなあ、何曲か聴きました(ラインナップは残念ながら覚えていません)けど、当時の私が好きだなと思った曲はただ1曲、『少女A』だけでした。伸びやかなリンちゃんの歌声が印象的な、疾走感とほんのりした憂いのあるこのロックソングは、初めて聴いてからちょくちょく聴き返していました。

 でもそれっきり、私は能動的にもたさんの曲を聴いていこうとはしなかった。1つでも好きな曲があるのから、他にも好みな曲はあるはずだと。そう信じる事すらできないまま、じつに身勝手に、さよーならしてしまったのです。

 

 ――あの訃報が届くまでは。

 

出会い直したあのときのこと

 もたさんの訃報が届き、多くのおくやみが飛び交ったとき。ファンどころかほとんど曲を聴いていなかったわたしは、しかしもたさんと交流のあったボカロPさんたちのTwitterを見て回っていた記憶があります。なんでそうしていたのかはやっぱり覚えていなかったのですが、とにかくびっくりはしていたのだと思います。だから、また曲を聴いてみようと思った。大きく報じられたことをきっかけに。人間の死を、きっかけにして。

 目の覚める思いでした。『パレットには君がいっぱい』、『シティライツ』、『それは、真昼の彗星』、ほかにも好みな曲がたくさんあった。把握はしていてももう一度踏み込もうとはしなかった領域に、素敵な世界が広がっていた。でもその世界は、これ以上作者さんの手で広がることは望めないのです。突然の訃報から2か月後、もたさんの曲にも関わっていた映像ディレクター・YumaSaitoさんの手で『ヘルシーエンド』が投稿されて聴いたとき、それを強く感じました。

澄んできらめく音と、キャッチーなメロディと、光と闇と奥行きを感じる映像と。すべてが好きだった。でも、

どうして気づけなかったの
でも

 

もう遅い
(初音ミクWikiより歌詞引用) 

 他ならぬもたさんの歌詞で刺された。本当に、こういうことです。色んな感情が混ざり込んで、あのときは聴きながら泣いてしまった。

 

3年経っても曲だけで聴けない

 それからもたさんの曲を少しずつ聴いてきています。ご自身のや未投稿曲で参加されているアルバム(特にご自身のはだいたい高騰している。iTunesだけが頼り。むり)を少しずつ買って聴いたりもしています。

 でもそうしているとき、常に頭のどこかで死を意識してしまう。歌詞と結びつけることさえよぎることもあって、そのたびに慌てて思考から振り落とす。お亡くなりになったから聴いているわけではないし、お亡くなりになったことと発表されている曲には何の関係もないのに。作者と作品は切り分けて考えるようにしたいなと常日頃から意識しているのに、もたさんに関してはそれが全然できていない。

 作者の死さえ文脈にして、それ込みで曲を好きになっていないか?たまにそう自戒します。去年の7月23日に開催されたボカロクラブイベントの0次会として、それに参加する普段twitterで交流のある方々とカラオケに行きました。その中で私は「シティライツ」を歌って。歌いながら、「自己満足じゃないか?」と自分で少し冷めた気持ちが芽生えていました。

 そんな感じで自省することはたまにあります。でも、もたさん絡みのことについて自省の方向性で強く意識し始めたのは、茄箱さんという、椎名もたさんにとても深い思い入れのある方の発言からでした。

(ツイート引用に際して、ご本人から許可をいただいています)

 

 刺さった。すごく刺さった。もしもたさんがご健在だったなら、たぶん今もこの方の曲に触れ直そうとはしないままだっただろうから。「これもひとつの出会い方だ」とは、ちょっと自分では言えないかもしれない。

 

  とっても共感しました。どうすればいいのか、わからないんです。「もっと早く出会い直していれば」とは思いますが、過去のことは今さらどうにもならないじゃないですか。それが本当につらい。

 作品やコンテンツ、あるいは誰かについて話す動機は、できるだけその人や物への「好き」という感情からにしたい。生き死になんてその対象を傷つけずに触れる事すら私にはむつかしい概念だし、ましてや何かを語る理由になんてしたくもない。でも今回の場合、もたさんの死がなかったら曲を聴いてすらいなかった。聴いてなければ、そういうきっかけがなければ、何を話すこともできないわけです。

 ジレンマに、苦しんでいます。苦しんだまま、3年が経ちました。もたさん(の享年)と同い年になったし、もうすぐ追い越してしまいます。

 私は、あなたとあなたの曲が好きです。生きておられるときに出会い直したかったし、直接好きを伝えたかった。こんな自分の個人的な感情とは別に、長生きしていただきたかった。そう思っているんだけど、もっと胸を張って言えるようになれたらいいなあ。一番伝えるべき相手はこの世におられないけれど、それでも。それでもです。

 

「マジカルミライ2017」でハジメテとミライを観た気がした

まえがき

 

 「マジカルミライ2017」3日目(9/3)に行った際の、感想文と日記の合いの子みたいなものをざらざら書きました。日記がだばーって続いてその後に感想文がドーンしてます。たぶん。

  ※文中に私のTwitterのフォロワーさんのお名前を勝手ながら出させていただきます。ご了承ください。不都合がある方は、ご連絡いただければその部分を削除いたします。

 ※文中の「ボーカロイド」は、「VOCALOID」「UTAU」「CeVIO」等の「歌唱させることを主目的とした音声合成ソフトウェア」のことを指しています。 

 

マジミラ日記(ライブまで編)

 

本来なら、私はあの場にはいなかったはずなんです。メモリアルチケットは当選していたのですが、直後にその日予定が入った……と勘違いしてしまったので。行けなくて残念だなあと思いながら月日が過ぎ、予定なんて最初からなかったということに気づいたのは、マジミラの最後のチケット販売が終わった後でした。

 何やってんだ私と思いながらマジミラ1日目と2日目はTwitterのタイムラインを眺めていて。ネタバレは避けているけど熱量の伝わるライブの感想、企画展の様々なコーナーやイベント・最新技術、それからボーカロイドという存在を介して現地で交流を楽しんでおられる方々の様子。皆さん、思うことはきっと違えどそれぞれの方からあの空間を楽しんでおられるということが痛いほど伝わってきて。

 そうしたら、自分もあの場に行きたいという気持ちが吹きあがってくるのをどうしても止められなくて。初音ミク10周年&マジミラ5周年という節目、集大成のひとつとも呼べる場に立ち合い、ライブには行けないだろうけど全力で楽しみたい。そう心から思った私は、幕張の地を踏みに行くことにしたのです。マジミラ2日目、午後3時半くらいのことでした。

 荷造りや夜行バスのチケット購入などの準備を始めて、その途中で最初は諦めていたライブ(昼公演)のチケットも手に入ることになって、もうこの時点で夢の中に浸っている心地がしました。バス内では興奮しすぎたのか何なのか一睡もできずじまいだったので夢の中にはいませんでしたけど……そんなこんなで、初めてのマジミラ行きはめっさ突発的で無計画なものになりました。

 新宿の真ん中で都会しゅごい、と捻りつぶされそうな気分になりながらもいざ幕張メッセへ。午前10時頃最寄駅を降りて、ボーカロイド関連のグッズを身にまとった方々についていく途中で、ふと思いついてこの旅に連れてきたミクさんのぬいぐるみ(↓画像)を腕に巻きつけて抱きつかせるような形にしました。両手のひらがマジックテープ式になっていまして。

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 Twitter上で交流のある方とお会いするときの目印にもなるし、何よりミクさんと一緒にマジカルミライを見て回れます。かわいい。

 そしていよいよ幕張メッセに入ると、待っていたのは広い空間とそこを埋めんばかりの長蛇の列。入場券などのシステムがよくわかっていなくて混乱したりで、企画展に入れたのは11時頃でした。X-CLOWさん(@x_c08、以下くろーさん)からペンライトをお貸しいただけることになっていたので、待ち合わせも兼ねてATOLSさんがプレイ中のDJステージへ。無事邂逅してペンライトをお借りし、その場でさっそく振ってました。マジミラどころかライブ自体が初めてでペンライトに触れたことがなかったので、見よう見まねで周りに合わせる感じになりましたが、この後の昼公演の予行演習にもなると思って楽しくぶんぶんです。

 ATOLSさんの曲はまださほど多くの曲を聴いていないのですが、太く尖った音にとても高まって心地いいひとときでした。周囲の方の邪魔にならないようにしながら小さくステップを踏んでみたりとか。最後に披露されたヒューマンビートボックスに凄いなあという語彙力のない感想を持ったりとか。おかげでライブの前に結構な体力を使ってしまったので、"基礎体力向上"の6文字が脳裏をよぎりました。

 DJステージが終わったら少し急いでライブステージへに向かいました。「猛独が襲う」「ライカ」といった、比較的最近に投稿された好きな曲が流れていて嬉しかったです。

 結構遅い入場になってしまって慌てましたが、すみとさん(@labo_lution)からご厚意でサイリウムを4色各1本ずついただいてから無事着席。チケットはフォロワーさんからお譲りいただいたのですが、真ん中か若干後方寄りの、ボーカロイドたちをほぼ真正面からしっかり見ることができるとても良い場所でした。

マジミラ日記(ライブ編)

 そしていよいよライブが始まります。

(※どの曲も非常に楽しんだのですが、すべての曲について書くとあまりにも文章が長くなるため、特に印象深かった部分のみ記述します。そして、始終テンションがヒャッハーしてたせいで細かい部分に全く気付かなかったのと一部思い出せない部分があるせいで記述に偏りが生じています。ご了承ください) 

  

 オープニングを経て始まった1曲目、「みんなみくみくにしてあげる🎵」。ニコ動上のVOCALOIDオリジナル曲で最も再生数の多いあの曲のフルバージョン。開幕からライブ会場は一気に温まって、私もデフォルト衣装で踊るミクさんと周囲の様子を見ながら気持ちが高まっていきました。この曲好きだから。(この曲だけではありませんが)このマジミラのために調声がリファインされているということはその時は全く気づけなくて、後で知りました。でも、ショートver2007年、フルver初出2009年の曲を「今のミクさん」が歌っているというのは、ミクさんと時代がさらなるミライへと進んでいるということなんだろうなあって思うと嬉しくなってきます。それから、サビの冒頭が流れるたびに上部スクリーンでその部分の歌詞が映し出されていたのですが、あのフォントはたぶんミクさんの製品パッケージのロゴと一緒ですよね…?

 2曲目「ストリーミングハート」。正直な話「あ、去年やってたゴーストルールじゃなくてこっちなんだ!」と思ってしまった部分は否定できないのですが、個人的にかなりブチ上がる曲だったのでこの時点でテンションかなり高かったです。コールがしやすいポイントがある曲はライブでも盛り上がりやすいんだなって実感しました。いぇーいぇーええーおっおー!

 3曲目「エイリアンエイリアン」。どこかで演奏されるかなという気は薄々していましたが、実際に聴いて本当に楽しかった。ナユタンさんの曲の中でもかなり好きなので。そしてこれは「ストリーミングハート」でもそうだったんですが、曲の動画(本家)に合わせてペンライトを緑色から赤色に変えておられる方がちらほらいて、素敵だなあと思って私もやってみました。ペンライトは緑のままで、でもそれを握る左手に赤いサイリウムも追加して。 

 4曲目「Singularity 」。「マジカルミライ2017 楽曲コンテスト」でグランプリを獲得し、この幕張メッセで演奏されることになった曲です。作曲者のkeiseiさんとマジカルミライ、そして初音ミクに関する話は知っていて、夢を叶えるって本当に素敵で、でも確かな努力のいることだよなと思います……もっとも、この曲が演奏されているときの私は「ぼくのきみのみんなのゆめ!いま!ああああああああ素敵!みんなここにいる!うわあ最後の最後でミライって!常に先を見ていこうな!」という感じで歌詞と曲に酔いしれてたので、そういうことは全然考えてなかったんですけど。それと直前のMCでミクさんがタイトルコールしてましたが、確かこの曲のみでしたよね。めっさ滑らかなおしゃべりと共に印象的でした。どんどん盛り上がっていこうな。

 一つ心残りだったのが、keiseiさんがTwitterで「『ぼくのゆめ~』のとこ、〇〇(何かの動き)がめっちゃ合いそうだから本番観に行かれる方はぜひやってほしい」(というような内容のことをおっしゃっていた覚えがあったのですが、〇〇の部分を失念してしまってできなかったことです。

 5曲目「ヒビカセ」。ゴリゴリで踊れる曲。最近ボカクラ(ボーカロイド曲がメインでかかるクラブイベント)に行き始めたのでステップが踏みたくなりました。クールで大人の夜という趣の曲ですが、同時にミクさんからマスターへの直球ラブソングでもあって、「忘れないでね 私の声を」と漏らしながらもキレよく踊り続けるミクさんが愛おしかったです。忘れないしいつまでも一緒にいたいのでこれからもよろしくね。この曲も動画に合わせてペンライトを青色にしてみたり。緑の海の中であちらこちらに映える青は、思わず見とれるような光景でした。

 6曲目「ツギハギスタッカート」。上部スクリーンの演出が好きすぎました。特に最後の歌詞とともに、赤い糸が切れてはらりと左右に分かれていく瞬間、息をのみました。……ミクさんの衣装チェンジがあったの、ここからでしたっけ?

 8曲目「脱法ロック」。当然のようにコールが楽しいし上部スクリーンもラリってたし何よりレン君きみカッコいいな!?そんでもって煽るな!?色んな意味でキマってた時間でした。

 9曲目「ドクター=ファンクビート」。バックダンサー(?)としてレン君とMEIKO姉さんも一緒に出てきてびっくりしました。こうして見比べてみると、レン君はまだ子供らしいところがあってMEIKO姉さんは大人の余裕がありました。踊り方の話です。振付一つ一つからも年齢(この言い方なんか違う気がするけど)がにじみ出ていて作り込みの細かさがすごい。ヤバい。

 そしてこの曲の主役、KAITOさん。すごく元気ハツラツでノリノリ。やる気みなぎってる。そんな感じでした。「大!天!才!」上手く決まるとめっさ気持ちいいですね!私はコールのタイミングと内容ほとんど知らなくてぐだぐだになりましたけど。脱法ロックからの流れで気分アゲアゲでした。

 10曲目「忘却心中」。初めて聴く曲でした。でもカッコいいしギターソロめっさ刀みたいで攻撃力高くて好きになりました。マイクスタンド持って大きく動かしながら歌い上げるMEIKO姉さんすごく力強くて惚れますね……。

 15曲目「孤独の果て」。正直に言うと、今までこの曲はさほど好みというわけではなかったんです。ギターがカッコいいなとは思っていても。でも今回ライブで聴いてめさめさいいなということに気づいて。こういう出会い直し方もあるんだなぁ。リンちゃんが熱かわいい。

 16曲目「いーあるふぁんくらぶ」。これ原曲だったかな…… 「そっか、こういう形で聴けるんだ。嬉しいな」とは思いつつも、マジミラのライブで他社ボカロが参加することはきっとこれからもないんだろうな、と勝手に寂しい感情になったとかならなかったとか。この曲もコールが楽しかったです。みかちゃん

 17曲目「ダブルラリアット」。ルカさん超ぐるぐるするのかなと思いながら見てたけどそんなこともなかった……と思いきや最後のほうで回りはじめました。しかもぐるぐるというかめっさ優雅にゆったり半径大きめでああもうルカさん可愛いな。

 その次に、「Nyanyanyanyanyanyanya!」に乗せてのバンドメンバーさん紹介。テンポよくてメンバーの皆さん楽しそうでめっさよかったです。あと「はーつねーみくー!」

 18曲目「気まぐれメルシィ」。私のテンションが一番高かったの、たぶんこの時です。だって大好きな曲でミクさん動画の子でかわいいの極みだったし直前の流れからかバンドメンバーさんもクローズアップされてて!!ねこねこポーズ×片目ウィンクで少なくとも数万は人が殺せる。私は死んだ。一緒に歌いながらペンライト振りつつぴょんぴょん(モドキ)しまくってました。跳ねるのはルール違反らしくてつらかったです。 

 19曲目「TODAY THE FUTURE」。「パパパ・パーティー in AEON」テーマ曲。メルシィでわーーーってなった私はここで、その勢いのまま泣きじゃくりました。元から好きな曲ではあるんですけど。

 こうやってライブ会場で聴いてみるとね、もうほんっっっとに歌詞がずるい。

 

"もしかしたら 自分と同じような気持ち
名前も顔も知らなかったけど ここにいるから 一緒だよね 

歌を みんなで歌おう 手を高く上げて
見えるでしょ みんないるんだ ここに 一人じゃない"


"歌おう みんなで歌おう 一緒なら大丈夫
歌にしよう どこまでも この場所が聴こえるように

望んだことの 未来がほら
目の前でいくつも 待っていたら
僕たちはここだと 手を振って
繋いでいこうね MY FUTURE

目指して あなたの未来まで
この手を今 伸ばして さあ"
僕らで繋いで行こう

 (piaproより歌詞引用)

 

 ステージの上で、お澄まし笑顔から目尻を下げた泣き出しそうな表情まで幅広く感情を出して歌い踊るミクさん。会場を呑み込みそうな緑のペンライト。「好き」の在り方はそれぞれ違うけれど、VOCALOIDが心から好きな人たちがここにはたくさんいて、それも老若男女様々だし外国から来られた方やちっちゃい子も多く見受けられて。わたしだけじゃできないこともこの大勢の人たちとならできるわけで。あの瞬間、二次元と三次元の境目なんて煙のように消えた気がして、ボーカロイドとわたしたちが手を取り合ってミライを目指すという幸せを考えて。

 ……わけのわかんないこと書いてますよね。でも、それくらい、わけわかんないくらい涙ぽろぽろしたしわけわかんないくらい歌って、ミクさんと一緒に手を高く上げました。何かに届く気がしたんです。

 今年投稿の曲ということもあって、最もミライを感じ、考えた時間でした。

 20曲目「なりすましゲンガー」。ミクさんとリンちゃんは2歳差です。そこまで大きい年齢差ではないはず。でも、元気いっぱいにマイクスタンドを持って歌うリンちゃんを、ミクさんは優しく横目で見つめていた気がしました。年齢的にも世に出た時期的にも、先輩と後輩を感じて胸が熱くなった覚えがあります。

 22曲目「メルト」。形式上のラスト曲。ミクさんほんとかわいい(n回目)「かわいいのよ!」のとこの振付ほんとかわいいな。両手でハート作ってるみたいにも見えて。

 ラスサビに入る瞬間、前触れなく金色の紙テープがしゅぱーん!って飛んできましたね。びくってなりましたけど、これは〇〇砲って呼ばれるものですよね。少し先のほうではらはらと舞い散っていくそれを見ながら、「もう会えない 近くて 遠いよ」のとこで泣くのを止められませんでした。

 いわゆる「うちのミクさん」がいらっしゃる方は多いかと思いますし、それぞれの曲や作品にもそれぞれのミクさんがいたりして。私も例に漏れず「うちのミクさん」がいる上にその時私の右腕に抱き着いてたんですけど、「マジカルミライ2017のライブステージでメルトを歌うミクさん」ってこの広い世界にたった一人しかいないわけで。本当に、この歌詞の通りだなって。貴重な時間、一期一会です。

 「みーく!みーく!」の大合唱鳴り響くアンコールの後、23曲目「砂の惑星」。両側にメルトオマージュと思われる虹色の鍵盤(「THANK YOU」「UNCORE」)を従えて下から来たマジミラ2017ミクさん。凛とした感じと愛らしさが同居しててほんと良かったです。まずメルトからのこの曲だし演出もそういう感じだったから言いようのない高揚感みたいなものが。今は2017年なんだなあ。長いですね、10年。ひと昔って言われるくらいですもん。ちょっと話題になってましたけど「砂の惑星さ」の振付、どことなくクスッときました。絵に描きたくなる感じの好きさがあります。あと「サンダーストーム」の振付も好きです。シュシュッ!しゅばっ!って感じが。 創作の輪とともに様々な感想や考察を生み出すこととなったこの曲ですが、「もう少しだけ友達でいようぜ今回は」というフレーズに従って、思う存分ネギ畑の一部になって楽しみました。

 24曲目「39みゅーじっく!」。コール多いのに私がちゃんと理解しきってなくてぐだぐだした曲その2。この曲も盛り上がりましたね。スラップベースごりごりのクラブミュージック調の曲に乗せてわーわーするのめっさ楽しい。

 25曲目「Hand in Hand 」。あふれ出るエンディング感で、これで終わるのかなと思って残った気力振り絞って楽しんでました。マジミラ2017を振り返るかのような、上部スクリーンに映る来場者さん達の写真もそうなんですけど。

 これで2017→2016→2015と、1年ずつさかのぼってマジミラテーマソングが3曲続きましたが、マジカルミライ、ひいては初音ミクボーカロイドへのアプローチの仕方は本当にそれぞれの方で異なっているしどれもきっと正解だしボーカロイドってそれが成り立つからそういう点でもすごいよね……。

 余談ですが、私の脳裏にもこの後ネクストネストが演奏される光景がよぎりました。同時に「でもこれで終わりだろうし、仮に続いてもきっと違う曲なんだろうなぁ」と根拠もなく思ってしまったことをここに懺悔いたします。

 勝手に終わるかと思って全力出してしまった私の前で鳴り響く26曲目「DECORATOR」。そのせいでこの曲の間あんまり動けなかったのでミクさん達ごめんね。

 いわゆるクリプトンファミリーのみんなの途中参戦、びっくりした方も多いのではないでしょうか。私もです。いただいたりお借りしたりしたペンライトとサイリウムを全部同時に振ることになるとは。後で聞いた話だとやっぱり初めての試みみたいで。ミクさんはボーカロイドの中でもひときわメディア露出多いし目立つポジションにいるとは思うけど、他のみんなと同じようにボーカロイドで。特にMEIKO姉さんとKAITOさんの存在がなければ、ひょっとしたらミクさん今ここにいなかったかもだし。こうしてみんなが並んで踊ってたの、壮観だしすっごく幸せそうだった!!ハイタッチし合うとこの仲睦まじさといったら。

 最後思い思いにポーズ決めるの、ミクさん貫禄あった。アイドルだった。リンちゃん両手顔の近くに添えててあざとかわいい。レン君は今回ずっとキメキメでカッコよかったし、最後までそうだった。KAITOさん手をぐわって伸ばしてて、リラックスしてそうでちょっとかわいかったです。ルカさん大人の女性だったしMEIKOさんは年少組には負けないって感じの少女性あってときめきました。結論:みんな最高

 今度こそ本当に終わるかと思った私の前で始まる再びのアンコール。へろへろになりつつ何の曲が来るのかな、「ODDS&ENDS」あたりかなと想像を膨らませていたような気がします。

 そして泣いても笑ってもこれでフィナーレ、27曲目は「ハジメテノオト」でした……と、ここで少しだけ自分語りをさせてください。ささやかな、出会いの話を。

 イントロで何の曲か分からなくて頭の中が「?」でぎっしりだったんです。そりゃそうです――私はそこで初めて、この曲を聴いたので。もちろん、タイトルは知っています。とっても有名な、初期のミリオン曲です。でも、特に理由もなく聴いてこなかった。現在進行形で投稿されていく曲を追いかけるだけでも大変というのもなくはないんですけど、やっぱり私の意思の問題で。取り立てて「この曲聴こ」と思ったことがなかったというだけのことです。そういう曲が、他にも数えきれないほどあります。

 でも、ダメでした。ピアノの優しい旋律に乗って届くミクさんのやわらかく濁りのない歌声に。そして、上部スクリーンに投影されたこの曲の歌詞に。色んな感情や実感がまぜこぜになって、ミクさんを見る視界がじんわり涙に濡れるのを抑えられませんでした。言葉って、こうやって実体を持って大きくくっきり見せられると計り知れないほどのパワーがありますね。

 少しだけ話が横道に逸れるのですが、私は中学生の頃にボーカロイドと出会って、それが「自分から音楽を探し求め、触れていく」という行為をする初めてのきっかけになりました。それまで主体的に音楽に触れようとしたことがなかった。それが、ボーカロイドと出会うことで変わって、ボカロPさんを含めた色んなアーティストの曲を聴こうとしている今につながっている。だから、

 

"初めての音に なれましたか?
 あなたの 初めての音に"

 

 ここで泣くのを、避けられるわけがなかったんです。(自分から探して聴いた初めてのボカロ曲はインビジブルだけど、それはそれだから許してね、ミクさん)

  

  "知らない曲とか 街の音に
  ワクワクしてますか? "

 

 はい。それは、あなたたちのおかげだよ。ありがとね。

 

 "やがて日が過ぎ 年が過ぎ
古い荷物も ふえて
あなたが かわっても
失くしたくないものは
ワタシに あずけてね "

(以上、初音ミクwikiより歌詞引用)

 ここも心臓がぐわっとなりました。私にとっての「失くしたくないもの」は、生きる理由と物事への興味。ミクさん達にあずけてるなあということを思い知らされて、それを全部許してくれている気がして。

 とどめはミラーボールの演出でした。いわゆるクリプトンファミリー六人の色に染まって、ときどき位置が入れ替わって。それだけでもミクさん皆に見守られているんだなあ幸せだよね……とかなんとか感慨があったんですけど、そのうちすべてのミラーボールが真っ白に移り変わったんです。

 あ、ミクさんだ。あれを見た瞬間に浮かんだその感情、今もはっきりと思い起こすことができます。ミクさんたちボーカロイドは一人では何も行動に移せないんだけど、その分ユーザーさんやファンの方によって何色にもなれるんです。どんな創作やイメージもすべてフラットに受け入れてくれる、何にだってなれる可能性を秘めた、夢の架け橋としてのシンセサイザーでありソフトウェアであり、はたまたキャラクターで、アイドルで、きっと人間でも機械でもあって。そんな、可能性をぎゅっと詰め込んでできたような、愛すべき純白の存在。私はボーカロイドをそういう存在として見ているということを、ステージの上空に佇む白い光球たちを見ながら、この日初めて自覚しました。

 初めて触れる曲の演奏とミクさんに昂ったり泣いたりしながら、こんなむつかしいこと考えられてたのかについては実際かなり怪しいところではあるんですけど――ただ、これだけは胸を張って言える気がします。

 私は、"ハジメテノオト"に心臓を撃ち抜かれたと。知らない曲にワクワクしたんだと。

 『ハジメテノオト』でついにフィナーレを迎えたその時、ミクさんのことがこれ以上ないくらい愛おしくなって、右腕にしがみついていた彼女を思わずぎゅってしました。

 

ohanashinoodle.hatenablog.com

  ↑の記事から月日が流れて、今年度に入ってからのどこかでミクさんのことが大好きだって自覚を得てはいたんですけど、あのライブを見て今まで以上に愛おしさが募りました。これからもずっと一緒にいたいから、よろしくね。

 長い話があっちこっちに飛びましたが、言いたいことは一つしかなくて。このライブ、最高に楽しかった。技術と演出(詳細を言えと言われてもさっぱり答えられなくて申し訳ないんですけど、特に照明が全体を通してすごくよかったです)、音楽や演奏、そしてそれらを創り出した多くの方々。ボーカロイドという存在。それを楽しみ、各々が自由に、でも自然と一体化して楽しみ盛り上げるファン(観客)の方々。それら無数の人たちが生み出したこのマジカルミライのライブという結晶、一生忘れない自信が根拠もなくあります。

 

 ライブの話はここまでです。既に9500字もあって人によってはおなかいっぱいかもなんですけど、もうちっとだけ続くんじゃ。ドラゴンボールは未読です。

 

マジミラ日記(ライブ終わってから編)

 ライブが終わってほわほわしながら会場を出て、人の多さに改めてビビりながらぐるーっと一周回って幕張メッセに戻ってきました。行きと違って帰るのにそれなりの時間が要りましたが、その分自分の中の熱気をある程度落ちつけて消化するにはちょうど良かったです。

 メッセに再び入って、ちょっとさまよいながらもくろーさんの待つ場所へ合流してペンライトをお返ししました。普段Twitterで交流のある方がすでに多く集まっていて、ご挨拶したりいろいろお話した記憶があります。何話したかはほとんど覚えてないので自分の記憶力のなさに幻滅です。でもライブの話は絶対したはず。

 しばらくして企画展に向かうことになり、歳近いしちょっとお会いしたいなーという話に、ヒカリゴケさん(@shiningview、以下コケさん)も加えた三人でなっていた、おこげさん(@okoge_27)に連絡を取りました。企画展入って正面の等身大ボカロ達の前で、コケさんと一緒に待ち合わせ。歳が近いとやっぱりリラックスしてお話しすることができました。三人どこでどう思ったかは違っても、ライブを全力で楽しんだのは一緒でした。

 おこげさんとはここでお別れして、コケさんと一緒にクリエイターズマーケットへ向かいました。ここには、トラボルタさんやdaniwellPといったニコ動の初期から今に至るまで活動を続けておられる方から、サークル「ZLMS」の方々(ジグさん、ルワンさん、はるまきごはんさん、雄之助さん)やR Sound Designさん(以下、Rさん)などの、ここ数年でボーカロイド曲の投稿を開始され、知名度を伸ばしている気鋭の方まで、様々な世代のボカロPさんが参加しています。ジャンルも多種多様で、ボーカロイドの縮図(?)のようなものを感じました。

 お財布事情が芳しくなかったので多くのものは買えなかったのですが、それでも大変素敵な作品を手にすることができました。*Lunaさん、Rさん、ミスミさんのそれぞれ最新のアルバムです。帰ってからどれも聞いているのですが、ここでは「どれもとてもよかった」という語彙力のない言葉のみにとどめておきます。

 ミスミさんが、右腕のぬいぐるミクさんについて「かわいいですね!」とおっしゃっていたのが心に残っています。とてもうれしかった。だってミクさんかわいいしぬいぐるミクさんめっさかわいいもの。褒めてもらえてよかったね、ミクさん!

 お互い思い思いにマーケット内を巡っていたので、コケさんとは自然にここでお別れする形になりました。この後どうしようかなと悩んで、まだお会いできていないTwitterでの知り合いの方にご挨拶したいなと思い、茄箱さん(@nabanaba47)に連絡を取ってお会いしました。くろーさんもご一緒でした。この数日前に「マジミラ楽しんで来てくださいね!」「焼きそばさんのぶんまで楽しんできます!」という類いの会話をしていたので、お互いびっくりですねーとなりました。途中でみちょこさん(@chocomi39diva)が合流したり、「砂の惑星」に出てくる仮面の人のコスプレをした口閉さん(@kouhei391)に邂逅してクオリティーすごーい!などとお話ししたりしながら歩いていると、DJステージ入口付近に見覚えのある方々が。やはりTwitterで交流のある人たちでした。一気に10人以上の集団になって、自然に輪の形になりながらおしゃべりしました。

 ここで聴いた話で最も印象に残っているのが、前日(2日目)のDJステージの話です。ナユタン星人さんの新曲「リバースユニバース」(しかも「砂の惑星」の後にかけてらしたとか)をここで初めて聴いて打ちのめされた方の話や、ピノキオピ―が、"嫌いな君は今でも 元気で息をしている 息をしている" "君の分も生きたい"と謳う「eight hundred」に続けて「君が生きてなくてよかった」をかけたという話。あるいは、keiseiさんが「サイハテ」→「equation+**」と続けた上で「ぽわぽわPに届けようぜ!」とお客さんを煽った話……きっと、どれもが胸の熱くなる光景だったことでしょう。私はそれを想像することしか叶いませんでしたが、それゆえ、実際見てこられた方々の想いのこもった語りにじっと耳を傾けました。時にうんうんと相槌を交えながら。

 二度ほど物理的に囲われたりしながら楽しくおしゃべりをして、その後自然解散となり、私はピアプロの壁へ足を運びました。VOCALOSENSEさん(@vocalo_sense、以下ボカセンさん)による二次創作キャラクター、「細胞ミク」を書くために。マジミラに来られなかったボカセンさんのため、そしてお絵かき壊滅的に苦手だけど自分もボーカロイドを描きたいなーと思って。細胞ミクはとても書きやすくてかわいいのでこれを読んでくださっている貴方も検索検索、です!途中でcannaさん(@ck190)とさっきぶりの再会をしたりしながら、いつぶりかに絵を描きました。

 ここまでで相当体力を消耗してしまったので、あとは会場をのんびり軽く見て回るだけにしました。体験コーナーも参加したかったなぁ……

 この後、「イオンモール幕張新都心」で開催されているパパパ・パーティー in AEONに途中からだけど向か……ったつもりが、会場を「幕張イオン」としか認識していなかった私は「イオン幕張店」にたどり着いてしまい、パパパ・パーティーを観れずじまいに終わるという大ポカをやらかしました。でも紛らわしいと思ってしまう権利くらいはください……

 その後何だかんだあって、てむらさん(@temura_vit)、空ウサギさん(@sora_rasp、以下空さん)と合流してカフェでお話ししました。そこで、パパパ・パーティーに行かれた空さんからその時の様子をお聞きして。

 ボカロPのマチゲリータさん(ミクダヨーさんも乱入)によるDJステージだったのですが、メルトやカンタレラなど、2009年頃までの曲が中心だったとのこと。そして、空さんが「マチゲガールズ」と呼称していたように、マチゲリータさんのファンの女性が客層に多くみられたそうで。その中でも、最前列にいたある女性は「マトリョシカ」のパーカー(存在をその時知りました)を着てらしたんだとか。

 「ここは2010年!」

 空さんはそういう感想を抱いたそうです。そこにはきっと、私にとってほとんど見たことのない世界が広がっていたのでしょう。けれども一方で、空さんとは「普段私たちが見ているものとは大きく違うようだけど、そのパパパ・パーティーの場もまたボカロシーンの一側面で、つまりボーカロイドって広いよね」という話をしました。(「私たち」がどういう立場なのかは、一概に説明できないし適切な表現が見当たらないのですけど)

 楽しみ方は十人十色なのです……というどこかで聞いたような言い方ですが、それでいいはず。です。

 カフェでゆるゆるっと喋りあった後は、外でくろーさんなど数人の方と合流してちょっとお話をしましたが、電車の時間が迫っていたので自分だけ泣く泣く先に抜けました。他の方はそのまま飲みに行かれました。いいなー。

 帰りの夜行バスでは、行きとは打って変わって始終すやすやすることができました。満たされたのと疲れたのが効いたんだと思います。

 こうして、私のマジカルミライは終わりを告げました。魔法のような、ひとときでした。

 

全体を通して感じたこと(の、雑多な羅列)

 マジカルミライのライブ関連で多く話題に上がるもののひとつに、セトリ(セットリスト)があります。特に今回は初音ミク10周年&マジカルミライ5回目という一つの節目で。私の観測範囲でも、しばらく前からセトリについて期待や想像をする声が多く挙がっていました。「初音ミク10周年という記念すべき節目の年だから、今までを振り返る形で、過去の名曲も多く入れてほしい」という意見から、「こういう年だからこそ、これからを――ミライを感じさせるような選曲を期待する」という意見まで。

 そうして始まったマジカルミライ2017のセットリストは(おそらく)前者で、私の立ち位置はどちらかと言えば後者寄りでした。

 全体の中の比率という意味では曲の年代などバランスが取れているようには感じます。「TODAY THE FUTURE」「Singularity」「砂の惑星」と、今年投稿の曲もありました(そのうちの2曲は、この場のための曲ではありますけどね)

 ただ……1曲目、形式上のラスト、実際のラストという特に印象に残りやすい箇所の曲が全て2007~2008年投稿の曲であったこと。そして、初の試みである1日ごとの部分的なセトリ入れ替えのところで演奏されていた5曲×3日間=15曲が、どれも2012年以前の比較的古めな曲で構成されていたこと。この二つについて素直に歓迎できたかと聞かれたとしたら、首を縦には振れないと思います。それとライブ編の途中で触れたように、私がボーカロイドと出会う以前に投稿された曲は、有名な曲であったとしても十分には聴けていません。ライブなどの場で馴染みのある曲がかかると嬉しいという感情はあります。

 でも、それは私にとっては些細なことになりました。だって、あんなにも楽しかったし楽しめたんだもん!ステージ内を華麗に動き踊るミクさんたちに改めてきゅんとして、素敵な曲に出会い、それまであまり好みではないと思っていた曲の良さに気づき、ハジメテ聴いた「ハジメテノオト」が深々と――それはもう、二度と抜けそうにないくらい深々と心に突き刺さっていたから。そうなったのは、曲・演奏・演出・他のお客さん――それらすべてをひっくるめた「場」の力で。それが私の波長に響くものだった、という話です。

 感じられたらいいなと思っていた未来。それは、「TODAY THE FUTURE」「Singularity」「ハジメテノオト」「砂の惑星」などの様々な曲たちから、想像していた以上の熱量を持って私に降りかかり、それを全身で感じ取りました。私にとって、ミライのことを考えさせてくれる時間だったのです。開演前に会場BGMとして流れていた、昨年末や今年投稿の曲もそう。企画展にあったボカロキーボードや体験型新ライブなどの最新技術、クリエイターズマーケットの参加者さんの顔ぶれなどもそうです。

 自分が考えもしないミライ、触れたことのないハジメテがそこにはありました。

 

 ただ、こんな素敵なミライもハジメテも、創っていくのは私たち人間です。こんなにも人々を歌声や姿で魅了するボーカロイドも、自分では声を出すことすらできやしない。ボーカロイドを歌わせたり絵に描いたりして、それを様々な形で発表し、みんなで楽しむこと。ジャンルとして、文化として、技術として成熟させていくこと。それはすべて、人間の仕事です……って言いきっちゃって大丈夫かな。不安だな。

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 私はこのVOCALOIDイメージソングを愛してやまないのですが、それはそれとして、まず間違いなくこうはならないと思うのです。――君(人間)が死んだら、歌は死ぬんです。あなたはひとりじゃうたえないの。残念だけど。

 同様に……とは言えませんが、今年は計3万人以上を動員したこの大規模イベント「マジカルミライ」には、運営して下さる方がいるわけです。何当たり前のことを言っているのかという話ですが、このイベントがいつまで続けられるのかは、私たちお客さんの行動次第で決まるのかもしれないんだよなって。今回――今回「も」らしいですが、マジミラ参加者のごく一部に公序良俗に差し障る行動をされた人がいたそうで。そのせいで来年から運営形態(?)に変更があるかもしれない、という内容のツイートも見かけました。うろ覚えですが。

 話がだらだらとまとまりに欠けていて申し訳ないのですが、言いたいことはさっきも述べました「ミライを創っていくのは、私たち人間だ」の一言に尽きます。私はこのボーカロイドという愛すべき存在、そしてそれが媒介となって生み出される無数の現象や創作物、交流などを見続けていたい。いつまでも、いつまでもそばにいたい。

 ボーカロイドについて私ひとりにできることには限りがあります。特に、今の私には。

 ボーカロイド自身やそれ関連の創作物を見て聴き、感想を言うなどして一人でも多くの方にその魅力を知ってもらうこと。素敵な曲を使わせていただき、聴いていて心地よい音の流れを目指したDJmixを作り公開すること。そして、今書いているこのブログ記事のように、ボーカロイド及びそれ関連のものに関しての文章・小説などを書き連ねてネットの海の中で見ていただくこと。これくらいなのです。

 だけど大丈夫。少しずつでもできることは増やしていきたいし、何より"みんないるんだ ここに 一人じゃない"んです。同じ「ボーカロイド」を愛する者たちで、前向きで建設的な方向に舵を切れたら。協力し合えたら――きっとそこには、素晴らしいミライがあるはずです。とても大変で生半可なことじゃ実現できないのに、夢のような話をしているなと自分で思います。でも少なくとも私は、その夢物語を書き綴るお手伝いをしたいです。

 だって私は――ボーカロイドが大好きで大好きで大好きで仕方がないんだから!

 

 そんなことを思わせてくれる、素敵なイベントでした。「マジカルミライ2017」は。

 

あとがき(のようなもの)

 ここまでで実に約15,000字もある文章を読んでくださった皆様に、心からの感謝を送ります。最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

 もしこれを読んで何か感じるものがあったという方がおられましたら、それ以上に幸いなことはありません。願わくば、これからも一緒にミライを創っていきましょうね!

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

迷い子オルガンは唸る【没食らった劇脚本の供養】

 以前、入っている演劇サークルの公演用に提出して多数決の前に屈した脚本です。提出の直前までほとんどできてなくて実質二日ほどで書きました。短い・掘り下げが甘い・説明過多と粗々ですが、暇つぶしにでもどうぞという気持ちで放り投げます。

 

本編

〈登場人物〉

レミー(男):生まれた直後に両親に捨てられ、孤児院も併設している教会の神父エディに引き取られて生活している少年。オルガンを弾くのが大好きだが、本人自体の技量はさほど高くない。

 

エディ(男):キリスト教会の神父。争い事や面倒事が嫌いな、穏やかそのものといった性格。神父としての力を生かして怨霊や悪魔を祓ったり、孤児院も営んだりと日々あわただしく働いている。

 

オルガン:あるオカマの霊魂が天国にも地獄にも行けずさまよった果てに、居心地のよさそうな教会のパイプオルガンに住み着いた結果、オルガンは感情を持ち喋るようになった。ただし彼女がパイプオルガンに憑依した際に、それまでの記憶が消滅している。

 

 

 

 

 

真夜中。女性の霊魂、下手からピンスポットとともに登場。

 

 

霊魂:死んじゃったのはこの際しょうがないとして、あたしこれからどうすりゃいいのよ・・・これ、いわゆる亡霊ってやつでしょ。さまようのももう飽きたし、しばらくは居れそうなところを探さなきゃよね・・・。

 

   とぼとぼと上手に置いたパイプオルガンのそばまで歩く。

 

霊魂:あら、このパイプオルガンいいかも!よーし、なんだか高級そうだし取り憑いちゃえ。えいっ!

 

パイプオルガンの蓋を開けようとするが、パイプオルガンの持つ謎の力に阻まれて引き離されそうになる。

 

霊魂:せっかく、良さそうなところ見つけたんだから、負けないわよ・・・んぐっ、きゃあ~!

 

    霊魂、悲鳴を上げながらも、強引にパイプオルガンの中へ入り込み、蓋が落ちるように閉まる。

    ピンスポットCO。

 

    明転。

    レミー、上手より眠そうに登場。

    時刻は朝。

 

レミー:ふわぁぁぁ・・・(あくびをする)眠いなぁ。

オルガン:あ、ねえねえそこの坊や。おはよう。

レミー:え⁉どこどこ、誰⁉

オルガン:ここよ、ここ。そしてあたしはただのパイプオルガンよ。

レミー:オ、オルガンが、しゃべった・・・?(後ずさる)

オルガン:警戒しなくていいのに。まあなんであたしがしゃべれるのかとか全然分からないんだけど、怖がらなくても大丈夫だから。たぶん。そのかわいい顔が台無しよ。

レミー:いや、それ余計に怖いよ!・・・でもなんだか悪い人じゃなさそうだから、ま

いいか。よろしくね。オルガン弾くの大好きだし、もうすぐ初めてピアノのコンクールに出るし、これからもたくさんお世話になると思う。(声の調子を落として)コンクール・・・あいつにだけは負けたくない・・・

オルガン:ん?何かあった?

レミー:あっ、いや、なんでもないよ・・・えへっ。改めて、これからよろしくね。

オルガン:ええ、こちらこそよろしくね。じゃあ、まずはあなたのことから聞こうかしら。

レミー:うん、まだ名前も言ってないしね。僕はレミー。産まれてすぐに父さんと母さんに捨てられたみたいで、この教会の神父のエディさんが引き取ってくれたんだ。ここ、孤児院もやってるから。

オルガン:さらっと言うのね・・・ご両親に会いたいとか思ったりしない?

レミー:ぜーんぜん。だって覚えてもいないし。それに、ここでの生活は楽しいから。

オルガン:あなたいい子ね・・・ううっ、ぐすっ(涙声)

レミー:泣くようなことでもないと思うよ⁉って、目も何もないのに泣けるんだね・・・しかも僕のこと見えてるんだよね・・・

オルガン:その上声も聞こえるー!

レミー:ほんっと、色々謎だ・・・まあ考えてもわからない気がするけど。それより、エディさんを呼んでくるよ。まだ挨拶も何もしてないでしょ?

オルガン:ええ、そうね。お願いするわ。

 

    レミー、下手まで歩き、大声でエディを呼ぶ。

 

レミー:エーーディーーさーん!ちょっと礼拝堂まで来てくれませんかー!

 

    エディ、下手から小走りで登場。

 

エディ:そんなどでかい声出さずとも聞こえとるわ!で、なんじゃいったい・・・

レミー:礼拝堂のパイプオルガンがなぜか突然しゃべれるようになってたから、エディさんにも紹介しておかなきゃと思って。

オルガン:どうもー!今日からお世話になるパイプオルガンよー!ちなみに性別はヒ・ミ・ツ♡

エディ:また面妖な感じの奴だのお・・・ん?

 

    エディ、ピアノを覗き込む。

 

レミー:エディさん?どうしました?

オルガン:や~ん、そんな間近から覗き込まれたら、あたし、照れちゃう~!

エディ:・・・はっ、これは!

 

    エディ、飛びのくが後ろ向きに転倒する。

 

エディ:痛たた・・・とにかく、これはいかんのだ!

レミー:いったい、何がいけないんですか?説明をお願いします。

エディ:すまないがそれはできん。あまりにも恐ろしいことである上に、君が聞いたらむしろそのほうが良いと思いそ・・・

オルガン:ねえ、何が起きてるかわからないけど、結局これどうにかできるの⁉私の話だからそれが一番気になるんだけど!

エディ:その点は安心してかまわん。時間は多少かかるが、エクソシストでもあるわしの手で解決できることだから。

オルガン:それならよかった・・・まあ何から助かったのかさえ分かんないけど。

エディ:悪いがそのあたりの事は詮索してくれるな。知らないほうがいい事実もある。これはレミーにも対しても言っているぞ。

レミー:(やや不服そうに)は、はい・・・

エディ:とにかく、わしのほうで穏便にけりをつけておくから気にしないでくれ。ではわしは朝食を作るから。あと早めに寝巻きから着替えるんだぞ、レミー

 

    エディ、下手へ退場。

 

オルガン:結局何だったの、あれ・・・もしかしてエディさんって案外変わり物だったりするのかしら?

レミー:そんなことはないはずなんだけど。それより、エディさんがさっき言いかけてたことが気になるなー。

オルガン:あら?何か言ってた?

レミー:言ってたね。「君が聞いたらそのほうがいいと思いそう」って。最後のほうはオルガンさんの言葉であまりよく聞こえなかったけど。

オルガン:ふーん、そうだったのね。自分がこれからどうなるかが気になりすぎてさっぱり聞いてなかったわ。・・・それにしても、レミーは得をしそうだけどあまりにも恐ろしい事って、何なんでしょうね?

レミー:うーん・・・(しばらく考える)今考えても答えは出ない気がするし、とりあえずコンクールの練習しようかな。オルガンのことで僕が得をするのなら、恐ろしいことがあっても我慢できる気がするけどね・・・

オルガン:君は本当にオルガンが・・・つまり私が好きなのね。いいわ、お姉さんがいくらでもからかってあげちゃう。

レミー:からかわれるんだ・・・ってそれより、確かにオルガンは大好きだけどそれとこれとは別だよ!

オルガン:うふふっ。もっちろん、ちょっとした冗談よ。まあそれはいいから、早く弾いちゃいなさいよ。話すのは演奏しながらでもできるわよね?

レミー:うん、そうする。

 

    レミー、オルガンのふたを開ける。

    オルガンの上に置いた楽譜を取ってふたの内側に置く。

    椅子に腰かけ、演奏を始める。曲はシューベルト『魔王』。

 

オルガン:ずいぶんと縁起でもない曲を弾くのねー!おまけに教会関係なさそうだから、選曲が少し意外。

レミー:特に意味なんてないよ。教会にこの曲の楽譜が置いてあるから、それだけ。

オルガン:なるほどね。そういえばレミーはなんでオルガン弾くのが好きになったのかしら?

レミー:よく覚えてないんだよね・・・生まれた時からあったから、たぶん自然とだとは思うけど。・・・あれ?

オルガン:何かあった?

レミー:いや、いつもよりずっとうまく弾けてる気がして。なんだかオルガンと一つになってるみたい。

オルガン:普段より集中できてるとか?それとも、もしかしてあたしパワーだったりしちゃう?原理はさっぱりわかんないけど!

レミー:割と真面目にオルガンさんパワーだったりしちゃうかもしれない。僕は普段通り弾いてるだけだし、今日突然ってことは、タイミング的にそれはあり得ると思う。

オルガン:だとしたら、私ってすごいのね。やるぅ!レミーは私に感謝することね。

レミー:うん、本当にありがとう!おかげでコンクールでもいい成績が取れそうだよ。

オルガン:そういえばちょっと前に言ってた気もするけど、コンクールってどんな感じなの?

レミー:三週間後くらいにここでやるんだ。小さなコンクールだけど、ちょっとどうしても負けられなくて。

オルガン:何?ライバルとかそんな感じ?

レミー:ライバルというよりは・・・見返してやりたい、って感じかな。近所に住んでる同い年のロイクってやつがガキ大将で、おとなしいからってしょっちゅう陰でいじめられてるんだ。池に突き落とされたこともある。そいつもオルガンやっててしかも僕よりうまいから、このコンクールで勝ってこれ以上ちょっかいをかけられないようにしてやりたいんだ!

 

    レミー、演奏を止める。

 

オルガン:そういうことが・・・でも、私の力を借りてそのユーゴって子に勝っても、それはインチキだってことはわかってるわよね?

レミー:それは、もちろん。でも、これは自分を守るためだからしょうがないんだ。悪い事じゃないんだ。それにコンクールでこのオルガンを使うのは前から決まってたことだし、僕がわざとインチキをしようとしたわけじゃない。・・・使う予定のオルガンが、そのつもりもなく偶然僕に力をくれただけ。(震えた声で)・・・ね?何も、悪い事なんて・・・してないでしょ?

 

    オルガン、沈黙。

 

レミー:・・・そうだと言ってよ。僕には、他の方法なんて思いつかなかったんだから。

オルガン:確かに、レミーの気持ちはあたしにもわかる気がするわ。でも、そうやって自分にうそをつき続けて大丈夫だって言い張っても、きっといつか天罰が下るんじゃないかしら。これはオカマの勘よ。当たる確率はなんとっ、驚異の50パーセント!

レミー:それ、ただの当てずっぽう・・・でもオルガンさんの言うとおりだよ。自分が悪いことをしようとしているって、よーくわかってる。でも僕は、天罰を受けるのは覚悟でインチキしちゃおうと思ってる。今のままロイクの暴力に耐えているのは、もう、限界なんだ。

オルガン:わかったわ。あたしには止められる気がしないからもう止めないけど、認めもしていないからね。そこんとこ、よろしく。

レミー:・・・ごめんね。きっとエディさんの言ってた「恐ろしい事」が僕への天罰になるんだろうなと思うから、逃げずに恐ろしい目に遭うことにするよ。・・・あっ。

 

    レミー、舞台中央奥の上側を見つめる。

 

レミー:時計見てなかった!もう着替えてこなきゃ!・・・また後でね!

 

    レミー、慌てながら楽譜やオルガンの蓋などを元のように戻し、足早に下手へと退場。

    暗転。

 

    明転。

    エディ、木の杖を手にして下手より登場。暗転前のシーンから5日ほど経過。

 

エディ:そこのオルガン・・・いや、オルガンに憑依している亡霊よ。こんな夜分にすまないが、話がある。

オルガン:え?亡霊⁉ど、どういう・・・なんかよくわかんないけど、その様子だと、結構重大な感じの用事だったり?

エディ:そうだとも。君の存在にかかわることだ。

オルガン:存在・・・存在・・・あっ、もしかして私を始末しようとしてるわけ?

エディ:断じて始末などではない。これは悪霊払いだ。図らずして黒幕のような立ち振る舞いになってしまっているのは自覚済みだが、わしは一人の聖職者である。イエス様に背くような真似はせんよ。

オルガン:・・・りょーかい。まあ、一番聞きたいのはあたしはいったい何なのかってことなのよね。どうもあなたにはわかっているみたいだから。

エディ:よかろう。隠し通すつもりだったが気が変わったんでな。自分の根源にまつわることを素性のよくわからん老人だけが知っているなどというのは、たいそう気持ち悪かろうし。――結論から言えば、君は亡霊だ。それも、天国と地獄のどちらにも行けずじまいで、この世をさまようしかなくなった亡霊だ。

オルガン:じゃあ私はもともと人間で、何の変哲もないオルガンに突然感情と言葉が芽生えたというわけではないのね?

エディ:ああ、それは違う。ここからは推測だが、君は亡霊としてゆく当てもなくこの世をさまよった果てに、この教会のパイプオルガンを見つけて憑依したということではなかろうかと私は考える。

オルガン:なるほど・・・でも、ちょうどいい場所を見つけたから取り憑いたというだけでなぜ恐ろしいことになるの?それと私がオルガンに取り憑く前の記憶がひとつもないのはどうして?

エディ:まず前提として、天国にも地獄にも送られない可能性のある魂というのは、生前の行いが「どちらかと言えばやや悪人寄りだが、根は善人で仕方なく軽微な罪に手を染めた」と判断されたものである。こういった者は、死者を天国と地獄のどちらに送るかを決定する審判役が答えを出しかねて、審判を放棄される場合がまれにあるのだ。

オルガン:どっちに送るか決められなかったから、お前は亡霊としてだが現世におれ、ということ?

エディ:左様。で、そのさまようことになった亡霊は本来現世にいてはならぬものである上、生前の行いだけで判断すればやや悪人寄りであるため、悪霊の分類になる。そんなものが現世の物品などに取り憑いてしまえば、その取り憑かれたものは悪に蝕まれ、次第に調子が悪くなっていき、しまいには辺りに邪気を撒き散らすこととなる。そして、その邪気によって、そのものなどを日ごろから使っている人のみならず、その人の周りにいる人まで侵されて、最悪の場合は死に至る可能性がある。

オルガン:どこまでもひどい話ね・・・

エディ:まあここまでが通常の場合なのだが、今回は少し勝手が違うようでな。結論から言えば、君がオルガンに憑依するまでの記憶がないのは、このオルガンが教会という聖なる力が強く集まる場所にあるため、その力を吸収したことによって、悪霊である君が憑依してこようとした際に対抗したからだろう。君はかろうじてオルガンに憑依することに成功したが、強い聖なる力を受けたことによって脳機能に損傷を負い記憶喪失になったと見える。

オルガン:なんという教会パワー・・・あれ、大体のことはわかったけど、そういや私が憑依してからレミーのオルガンの腕が上達したって話、この件と関係あるのかしら?

エディ:関係大有りだ。今もオルガンの中では聖なる力と悪霊の邪気が衝突、そして拮抗しており、それによって光と闇の混ざり合った強大な気が生まれ、オルガンの一番の愛用者であるレミーは、邪気が多く含まれているそれを大量に浴びているという話だ。・・・ほかに聞きたいことはないかね?

オルガン:ええ、もうないわね。教えてくれてどうもありがと。

エディ:・・・では、悪霊を払ってよき存在へと変え、天国に送る儀式を始めよう。

オルガン:あっ天国に行けるのね⁉ありがとう、愛してるわ!

エディ:ええぃ黙っとれ!・・・で、一度では君を払えないため、何度かに分けて行う。――ゆくぞ。

 

    エディ、杖を回転させながらさまざまな方向へ振り回す。同時に、呪文を唱え  始める。

 

エディ:罪なき民の持てる貴き品を蝕む悪しき御魂よ、神の子イエス様のお教えとお力を伝えし我の清らかなる力をもって清め給え!

オルガン:ひえ~っ!

 

    エディ、詠唱が終わると同時に、杖で床を強く突く。

    そして脱力し、杖を支えにふらふらと立つ。

 

エディ:(かすれた声音で)歳だろうか、一回でずいぶんと力が抜けてしまうわい。

オルガン:お疲れ様、ゆっくりお休みなさい。お年寄りは早い時間に寝るものよ。

エディ:気遣い助かる。万全の状態でないとうまく払えそうにないのでな、次は4,5日後になりそうじゃ。ではな。

 

    エディ、ゆらゆらと下手へ退場しようとする。

 

オルガン:あ、待って!聞きたいことをひとつ忘れてたわ!

エディ:いったい何じゃ。手短に頼みたい。

オルガン:・・・レミーには、このこと言わないほうがいい?

エディ:何があろうとも言わないようにお願い申し上げる。・・・レミーがいじめっ子を見返すためにコンクールでその子に勝とうとしていること、そのために今の状態のオルガンを利用しようとしていること、わしが止めようとしても聞くはずがないこと、すべて知っておる。だからこそ、あの子にはこれ以上何も悟らせないまま、かりそめの言葉でなだめて真実に気づかせないまま、穏便に事を終わらせたいんだ。どうか、協力してはくれまいか。・・・わしには、これ以外の方法など思いつかなかったのだ。

オルガン:エディさん・・・ええ、了解するわ。

エディ:では、今度こそわしは寝る。よい夢を。

オルガン:お休みなさい。

 

    エディ、上手に退場。    

 

オルガン:これ、両方に味方しなきゃいけない感じ?・・・どっちもいい子でいい人だし、

まあ構わないんだけど、ちょっと面倒だわね。

 

    暗転。

 

    明転。レミーがオルガンを弾いている。

    曲はブルグミュラー『素直な心』。

    コンクール五日前。

 

レミー:この曲『馬鹿』って題名なんだけど、遠い東のほうにあるニホンって国だと『素直な心』って訳されてるんだって。同じ曲なのに意味が全然違ってて面白いよね。

オルガン:へえーっ。確かに、面白いわね。・・・あっ、ちょっと思いついたから聞くけど、レミーはこの曲、どっちの題名が合ってると思う?

レミー:きれいな曲だから『素直な心』のほうが合ってる気がするけど、この曲を作った人が『馬鹿』って付けたのならその理由があるはずだよね・・・うーん、じゃあ、そういうオルガンさんはどう思ってるの?

オルガン:そのままの意味で、素直でいるのは馬鹿なことだって言いたい・・・とか?それとも、表面だけ素直できれいな感じにしてて実はろくでもない奴が、一番馬鹿だ・・・とか?いや、さすがに飛躍しすぎね。まあ作曲者じゃないからわからないし、どっちとも取れるってことでいいんじゃないのー?

レミー:あーっ、答え出さずに上手く逃げようとしてる!ずるい!

オルガン:これが賢い大人の生き方よ。

レミー:そんなのが大人なら、僕もうずっと子供のままでいいかも・・・あれ?

 

    演奏が止まる。

 

オルガン:あら、何かしら?

レミー:なんだか音がおかしい気がして。前に調律師さんが来てからそこまで経ってないんだけどなあ。

オルガン:ぎくっ。・・・き、気のせいよ。

レミー:その「ぎくっ」って、何・・・?

オルガン:ぎくぎくっ。・・・ともかく、このすごーく立派で美しいオルガン姉さんにそん

なおかしなことが起こったりするはずはないの。わかる?

レミー:もちろん、わかってるよー(棒読み気味に)

オルガン:そうよねー!じゃあ、演奏の続きを始めましょ?気分転換で弾いてるんだったら、そういう妙なことは考えずに弾くものよ。

レミー:なんだかうまく丸め込まれた気がするけど、気にしないでおこーっと・・・じゃあ、続きからね。

オルガン:ええ、どうぞ。

 

    演奏が再開される。

   『素直な心』を先ほど止めたところから流す。

 

オルガン:そういえば、なんだかオルガン上手くなってない?私のパワーとは関係なく。

レミー:今までよりも練習頑張ってるからね。もしオルガンさんの力が何かの理由でうまく出なくても、何とかできるようにって。あいつに負けたらどんなことになるか、わからないから。

オルガン:それなら自分の実力だけで、って言っても、聞かないわよね・・・

レミー:うん、絶対に聞かない。オルガンさんが止めてきても、大好きなエディさんが止めてきたとしても、ぜーったい。それに、これでロイクに勝てばもうこれまで通りオルガンを楽しんで弾くから。悪いことするのは、このためだけだから。・・・だから、だから・・・

 

    弾き方がだんだん弱々しくなり、演奏が止まる。

   『素直な心』FO。

 

レミー:簡単めな曲弾いて気分転換しよっかなーとか思ったけど。全然気分転換になってないなあ。

オルガン:きっとレミーには悪役の素質がないのよ。覚悟が決まっていればそんなことに

はならないはずだわ。

レミー:そうかもね。でも僕はあきらめないよ。確かに悩んでたりはするけど、もうすぐ本番だから早く吹っ切れなきゃ。

オルガン:意志が強いんだか弱いんだか。まあ、今日はもう練習なんてせずにゆっくり休んだほうがいいんじゃない?いい演奏はいい気分からってよく言うでしょ?

レミー:聞いたことないけど、そうかもね。

オルガン:そうかもじゃなくて、そうなのよ。

レミー:はいはい。でも今日は早く寝たほうがいいって言うのは正解だと思う。じゃあ、また明日ね。

オルガン:ええ、明日は元気な顔で来ること、いいわね?

レミー:うん、わかった。

    

レミー、上手へ退場。

 

オルガン:頑張りなさいよ、かわいい意気地なしさん。

 

    暗転。

    エディ、上手から登場。

    コンクール本番当日。

 

エディ:もう本番とは、早いな・・・では、最後に今日の予定の確認をするぞ。

オルガン:ええ。これまでの四回の悪霊払いでほとんど浄化できたけど、レミーが本番に挑むときに違和感を覚えにくいように、完全には払わないでいるのよね。

エディ:であるからして、レミーの演奏が終わるのに合わせて、コンクールの司会進行を務めるわしが拍手などに紛れて悪霊払いを行うという手はずだ。いいな。

オルガン:大丈夫よ。では、よろしくね。・・・それから、さようなら。ここでの生活は結構楽しかったわ。直接言えないのが心残りだけど、レミーに今までありがとうと伝えてほしい。

エディ:こちらこそ、子どもたちの相手をしてくれてありがたかった。ではな。天国に行ってからも、達者でな。 

 

    エディ、下手へ退場。

 

オルガン:これでいよいよ天国行きね・・・!もし審判役とかいうのに会えたら、あたしのオカマパワーでとっちめてやるんだから!

    

    暗転。

 

 

 

    下手奥側にいるエディにスポット。

 

エディ:続きまして11番、レミー・べニックス君です。

    

    スポットCO。

    同時に、レミー、楽譜を手にしてピンスポットとともに下手より登場。拍手の音。

    舞台中央で一度止まって客席に向き直り、深く一礼。

    オルガンの前まで行ったところで、オルガンをやさしくなでてから楽譜をセットし、『魔王』を弾き始める。

 

    しばらくして、オルガンの音量が露骨に不安定になり始める。レミーの弾き方も異常に激しい。

    ホリゾントライト(薄紫)FI。

 

エディ:これは、もしや天罰が・・・いかん!

 

    客席がざわめき始めたところで、エディは慌てて悪霊払いを始めようとする。

    ホリゾントライトを暗い紫色にする。

 

エディ:罪なき民の・・・うっ!

 

    エディ、邪気を浴びて倒れこみ、腹を抑えてうめく。

    その直後、レミーがとうとう絶叫を上げて椅子から転げ落ちる。

    『魔王』CO。

 

エディ:う・・・うぐっ・・・レミー・・・

 

    客席にいた人々が逃げ惑う際の叫び声と、地響きのような足音。

    それらがやがて止んだころ、エディが何とか起き上がって動かないレミーのもとへ歩き、肩を抱きしめて揺する。

 

エディ:レミーーー!レミーーーーー!息はあるか!わしの聖職者としての力をすべてささげてやるから、目を覚ませ、レミーーーーー!

オルガン:ねえ、それよりあたしはどうなるの!早く天国行きたいのよ! 

 

    ピンスポットCO。 

    強風の音と、不気味な低い笑い声。閉幕。  

   

 

 

 

    

 

 

過去を慈しむ灯のもとに【滲音かこいちゃん誕生日お祝い短編】

前書き

4日も遅刻してしまいましたが、UTAU滲音かこいちゃんの誕生日(1/22)を記念して短編を書きました。公式設定ではない「うちの子設定」とでも呼ぶべきものが大盛りになっておりますこと、予めご理解いただけたらと存じます。以下、全9347字、うちのかこいちゃんと私による1月22日のお話です。

※本文中に出てくる「僕」=ブログ主の名前は本名ではありません。ペンネームです。

本文

 肌寒い冬の朝っぱらから、自転車を漕ぎに漕いでスーパーや1oo均を回る。当然きついものがあるけど、貧乏学生にはこれしか移動手段がない。何よりこの買物は、愛すべき不思議な同居人のためなのだから、多少の疲労など構やしない。
……今日はごちそうだ。あの子はどれくらい喜んでくれるだろうか。中身の詰まったレジ袋の重みをひしひしと感じながら、家路を急ぐ。



両手にレジ袋をぶら下げた状態で、何とか寮の自分の部屋に足を踏み入れる。なぜか地上1メートルほどの高さでふわふわ空中浮遊している同居人の少女が、こちらを軽く振り返って迎えてくれた。

「ともや、おかえり」
「ただいま」

どこか機械的ながらも、透き通るようなウィスパーボイス。ただしけだるげでそっけない。そのそっけなさを態度でも表そうとしているかのように、彼女は一言おかえりを言っただけで、こっちに向いていた首を戻した。暗めの黄緑色をしたロングヘアが、さらりと横に流れる。
 どこか掴みどころのない印象のあるこの少女の名は、滲音かこいちゃん。UTAUという音声合成ツールのライブラリの一つで、二次元上の存在……のはずなんだけど、どういうわけか半年ほど前のある日、講義から帰ってきたら部屋の中に彼女がいた。本人の弁によれば、

「わたしみたいな、音声合成ツールのライブラリは……ご、ごくたまに、その子のことを心の底から、あ、愛しているマスターのところに、実体を持って現れることがあるん、だって」

ということらしい。たどたどしくも愛らしく話してくれた。
原理などはどこまで行っても謎だけど、そんなことはこの際どうでもいい。機械と人間の間を自由にたゆたうような声とその姿に惹かれ、彼女に歌ってもらいたいがためにDTMを始めて悪戦苦闘していたあの日々に感謝し、この子とともに生きていくだけだ。
……もともと余裕がなかった懐事情がいっそうきつくなったことだけは、あまりどうでもよくないけど。そろそろバイト先を今より稼げるところに変えないとな。

おっと、つい思考がどんよりしてしまった。今日はかこいちゃんが初めて世に出た日、つまり誕生日。楽しく祝ってやらなければ。
早速準備に取り掛かろうと、手に提げたままになっていた買物袋を下ろして中のものを取り出す。そのほとんどは食材と飾り付けのためのグッズ。改めてそれらを見ると、夜が楽しみでつい鼻歌を歌ってしまう。自分が動画投稿サイトに上げた2作目の、エレクトロニカ要素があるバラードだ。今振り返るとつたない部分も多い。でも、こうして歌っていると心地よい気分になってくる。
 上機嫌で鼻歌を奏でながら買ってきたものの整理をするいい年の大学生がよほど奇怪に映ったのか、いつの間にかこちらを見ていたかこいちゃんがおずおずと話しかけてくる。彼女が肌の上から一枚だけ羽織っているふわふわポンチョが、ひらりと軽く揺れた。

「……何か、いい事でもあった?」
「まあね。どちらかというといいことがあるのはかこいちゃんな気もするけど」
「んぅ?」
「「なんだろうね。今は教えてあげない」
「……へんなの」

元が画面とスピーカー越しの存在であるかこいちゃんは、おそらく自分の誕生日について関心がない。それどころか把握しているかも怪しい。何しろ僕の前に現れた当初は、人間社会の基礎的なこともほとんど知らなかったくらいだ。
だから今日は、誕生日というものが人間にとってどのような意味を持つのか、夕飯とデザートを通して少しでも伝えられたら。
彼女の頭上で月や星と共にゆっくり回っているみかんを手に取り、黙々と食べ始めるかこいちゃんをそっと見つめながら、改めてそう思った。

そうして見ていると、かこいちゃんのすぐ上でポンッ!と小気味よい音がして、先ほど彼女自身が取ったはずのみかんが復活する。同時に、音にびくっとした彼女の体が軽く跳ねた。幾度も聞いてきてるはずなのになぁ。そういうところも愛らしかったりするんだけど。
何だかそれだけで気分が軽やかになったので、さっきよりも買ってきたものの整理がすいすいと進んだ。



デザートを作って冷蔵庫に放り込んだので、次はシーザーサラダに使うミニトマトを半分に切っていく。普段は『おいしけりゃいい』の精神でいるので見た目に気を配ることはほとんどないけど、今日ばかりはそれじゃ自分の気が済まない。ミニトマトを切る、それだけの動作にも慎重さを。でも時間のかけすぎには注意。
そう脳内で何度も復唱しながら他の野菜も切っていく。冬の補食室は寒いので包丁を持つ手が震えるけど、お構いなしにトントンと。
それが終わるとほぼ同時に、今日のメインディッシュ、手羽先のタンドリーチキンがフライパン上でこんがり焼き上がった。中までしっかりと火が通り、食欲を掻き立てるいいにおいを発している。最後にそれらしく焦げ目をつけるため、皮目のほうを強火で少しだけ焼いた。
それから作っておいたミネストローネやエビピラフも見栄えがするように盛り付け、部屋まで持っていく。もしこの後使う人がいたら申し訳ないけど、片付けは食べてからで勘弁してもらおう。



一人用のこたつに二人分の料理を並べると、それだけでテーブルの大半が埋まってしまう。最初はドライフラワーでも置こうかと思っていたけど、やめておいて正解だった気がする。そんな感じでいっぱいに並べた自作の夕飯は、今すぐ器を手に取って食べてしまいたいほど、自分にしてはおいしそうにできていた。
でも食べ始めるのはもう少しだけ先。今日の主役が返ってくるまで待たないと。
かこいちゃんを最大限驚かせるため、あの子はサークルの同期の女子の部屋に預かってもらったのだ。電話でそうしてもいいか尋ねたところ、即答で「もちろんいいよ!」と帰ってきた。彼女の愛らしい不思議ちゃんなところが大学の同期女子にウケているようなので、都合さえ合えば引き受けてくれるだろうとは思っていた。だけど、それにしてもあそこまで快諾されるとは少しばかり予想外で。愛されていて結構なことだと、親のような、はたまたペットの飼い主のような感想を抱いた。
……まあ、僕のかこいちゃんに対してのかわいがり方は愛玩動物へのそれに近いという自覚があるけれど。それでも、対等な立場でいたいし、そういようと努力している。

そんなことをぼんやり考えていると、部屋の扉が開い……

「ひゃっ」

あ、静電気浴びたな。元が機械のようなものだからかは知らないけど、かこいちゃんは普通の人よりも静電気を怖がっている。
顔をわずかにゆがめて珍しく感情表現をしながら、彼女は外から戻ってきた。満面の笑みで出迎えてやる。

「……ただいま」
「おかえり。今日の夕飯はごちそうだよ」
「朝の鼻歌も、そうだけど……何か、いいことあった?それに、壁とかも、飾りつけしてある」

マスキングテープやリボン、折り紙、モビールなんかで一面彩られた壁を見れば、驚くのも無理はないと思う。見た目はそれなりに派手だけど、費用は6~700円ほど。神様仏様100均様。
でもそれより、今大事なのは眼前にある夕飯なわけで。

「まあまあ、早く座って。冷める前に食べような」

まだ状況が分かっていないかこいちゃんを軽くせかして、いつもより豪華な食事の並ぶこたつに座らせる。
僕もいそいそと足を入れて食べる姿勢になるけど、何しろ一人用のこたつだからどうしてもお互いの足が触れ合う。でも全然それで構わない。いつものことだし、それにもうとっくに家族の一員だと思っているから。
かこいちゃんの体温が自分の心臓にも伝わってきているかのように、ほんのりと暖かい気分になりながら、僕は彼女に、ちょっぴり豪華な夕飯と装飾のわけを話し始めた。

「いただきますの前に言わなきゃいけないことが一つ。……かこいちゃん、お誕生日おめでとう。この場合のお誕生日とは、かこいちゃんが初めて世に出た日のことね」
「……そうだったんだ。ありがとう。誕生日って何が嬉しいのかよくわかってないんだけど」

やっぱりそこから説明しなきゃいけないか。
食べながら話すことにしよう。いい加減腹が減って仕方ない。

「まずはいただきますしようか。それから話すよ」
「うん。あったかいほうが、おいしい。……じゃ、せーのっ」
『いただきます』

ポンと小さく、二つの音が部屋にこだまする。そこから間髪を入れずに、僕とかこいちゃんは夕飯をもしゃもしゃ食べ始めた。空腹なのはお互い様なようで。
 味見をしていたからある程度はわかっていたけど、見た目だけではなく味のほうも、僕の中では会心の出来だった。
かこいちゃんも満足げだ。スプーンとフォークを動かす手が早い。もし彼女がもう二本ある手も使えば、たちまち跡形もなくなるんじゃというほどの勢いだ。「ほかの人と違うから恥ずかしい」という理由で、普段はポンチョの下に隠して見えないようにしてるようだから、もちろん仮定の話だけど。

そうして二人ともあらかた食べ終わったころ、話すと言っていたことがまだだったのを思い出した。やっぱり食欲の力はすべてにおいて優先されるなあとか思いながら口を開く。

「誕生日の話なんだけど、あれには大切な意義があるんだ」
「意義……もしかして、人からプレゼントをもらえるって、こと? そういえば、前にどこかで、そんな話聞いたような、気がする」

「それも間違ってはないけど、そこまで大切ではないかな。誕生日はね……今まで毎日毎日生活を積み重ねてきたことを改めて意識し、それを振り返ることで、過去があるからこそこうして今を生きていて、未来を描くこともできる。そんな言ってみれば当たり前のことに気づき、ここまで育ててくれた親や友人たちに感謝する、そんな日だと僕は思う」

これはちょっとばかし綺麗事だ。僕もそんなに立派な意識で毎年の誕生日を過ごせているわけではない。でも、二次元というある種別世界のようなところからやってきた無垢な彼女には、少しでも美しい世界を見せてやりたい。よこしまな感情に染まらないでいてほしい。多少は現実やルールも見せていかなければならないけど、それでも、やっぱり。
……もしいつか彼女が汚い現実に遭遇してしまう時が来るのなら、その時はどうにかして責任を取らなければ。そうならないように尽力するけども。

「なるほどって、思うこと、言ってたのに。どうして、そんな顔してるの?」

少し後ろめたい気分でうつむきがちになっている僕を、かこいちゃんが上目遣いで覗き込んでいた。

「……何でもないよ。それより、なるほどって思ったんだ……ありがとう」

ごまかし15%・嬉しさ85%くらいの笑みを浮かべて会話の続きを促す。

「UTAUと、して、のわたしを大好きでいてくれる人、歌わせてくれる人……そんな人たちがいてくれたから、私、ここまで、来れたんだなって。愛してくれる人が、いるんだなって」
短文での会話が多い口下手な彼女の、熱のこもった長い語り。一言一句聞き漏らさず脳内に刻み付けるため、耳を澄ます。
暖房の駆動音とかこいちゃんのささやき声だけが、狭いこの部屋を満たしている。

「向こうの世界にいたときは、自分のことも何にも、知らなかった。自分がいるっていう、意識もね、ほとんどなかった。決まった自分が、いっ、な……いないから。それぞれの曲ごと、絵ごとの私が、いるだけで。でも、こっちに来てからは、色んなことを知って、考えたりするようになって……たとえば、おなじ滲音かこいでも『わたし』と『よそのわたし』が……ね、いることがわかったり、とか。世界ってとても広くて、嫌なこともたくさん、たくさんあるけど、愛がいっぱいなんだね。……まだつづくよ」

そこまで言い終わったところで、一息つくかこいちゃん。緊張していたのか、彼女の体からふっと力が抜けた。
軽く伸びをしてから首を両方向に一度ずつぐるっと回してリラックスし、小さな同居人さんは再び言葉を紡ぎだした。

「わたしをこの世界に連れ出して、そうやっ、て、世界の広さとかいろいろ、見せたり教えたりして、くれたこと。それから……ね、結構忙しそう、なのに、わたしのことを一生懸命に考えてくれて、優しく育ててくれたこと。……本当に、ありがとう。私はもともと機械みたいなものだったから、これからも人間とうまくいかないことあるかもしれないけど……それでも、これからもよろしくおねがいします」

一息に全部言い終えたかこいちゃんが、こちらに向かってお辞儀をした。そのせいで、まだ中身が少し残っているミネストローネの器に彼女のさらさらな緑髪が触れそうになっていたので、僕は慌ててそれを掻き上げた。

「ほら、周り見ないと危ないよ」
「あっ……ごめんなさい」
 
かこいちゃんの前髪を持ち上げたままの状態で、柔らかくほんのりとだけたしなめておく。
かこいちゃんはもう顔を上げたので、本来ならもう手を放すべきだ。こうやって近すぎず遠すぎない触れ方をしているのが心地よかったし、何よりさっきの彼女の言葉が心底嬉しかった。だからその後しばらくの間、感謝と親愛の意を込めて、かこいちゃんの髪の毛を梳いたりつまんだりさせてもらった。彼女もまんざらではなかったのか、頭上の星たちが体感で普段の倍ほど早く回っていたように思う。時々こちらの頬をつついたり、僕の髪に手を伸ばしてきたりも。

「んむぅー」

たまに形容しがたい唸り声のようなものを上げているのも、愛しかった。

ひとしきりじゃれたところで、今度は言葉でも感謝の念を伝えることにする。

「かこいちゃん、こちらこそこの世界に来てくれて本当にありがとう。かこいちゃんのおかげで、人間と機械のこととか作曲のこととか、より深く考えられるようになった。それに、一緒に暮らし始めて、毎日が楽しくなった。辛いことがあっても、めげるのはほどほどにして前に進まなきゃって思えるようになった。一緒に生きていく人が、できたから。いつも迷惑かけたり愚痴とか悩み聴いてもらったりしてる、頼りない人間だけど……これからもよろしくね」
「うんっ」

こうやって面と向かって言うのは案外勇気のいることだけど、今の暖かい心持ちが味わえるのならいくらでも勇気を振り絞ってやる。そう思えた。

そんな風に戯れたり思いを伝えあったりしているうちに、わずかに残っていた夕飯が冷めかけてしまっていたので、慌てて完食する。

『ごちそうさまでした』

それからかこいちゃんと一緒に食器を補食室のシンクに運んで、代わりにデザートとその取り皿、フォークを用意した。

「これ、ともやが作ったの?」
「その通り。お兄さんちょっと頑張りました」

僕が作ったのは、かこいちゃんの頭上から収穫したみかんをふんだんに使った、小さなホールケーキ。スポンジ記事を作れる炊飯器さまさまという感じだ。エビピラフにも当然炊飯器は使うので、今日の夕飯は外食するという友人に、スポンジ記事用の分の炊飯器を一晩貸してもらうよう頼んだかいがあった。

早速食べたいところだけど、その前に食事関連のものを入れている棚から、着火ライターとともにケーキ用ろうそくを取り出して、ある形になるようケーキに突き刺していく。

「く……クエスチョンマーク?」

かこいちゃんは僕がなぜそうしたかわかっていない。頭の中にもクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。

「かこいちゃんの年齢設定って、『?』になってるじゃん。それと、かこいちゃん曲の中でもかなり知名度の高いあの曲からってのもある」
「あ、そっか。……私、何歳なのかな。そもそも、歳、取るの?」
「残念だけどそれは生みの親さんしか知らないだろうし、もしかしたらその人自身も決めてないかもね。……取るのかなあ」

それは前から少しだけ抱いていた謎で、僕はちょっと考え込んでしまう。

「……わたし、きっと人間じゃないから。歳取らないのかも。……いつか、ともやに先立たれちゃうってこと、なのか、な」

自分は人間でありたい、と主張するかのように、かこいちゃんの目尻に液体が滲み始めた。顔だけはいつもの無表情なかこいちゃんだけど、声からもひどい落ち込みが感じられる。

――僕はたまらず、かこいちゃんの華奢な肩に正面から両手を乗せた。これ以上、彼女の弱った姿を見たくない。

「自分で考えて、悩んで、行動して……それができてるんだから、かこいちゃんは人間だよ。人と少しだけ体の一部が違っていても、もともとが二次元世界のライブラリでも、そこさえ確かなら……ね」
「そう……うん、そうだ。わたし、だいじょうぶ、にんげん。でも急に悲しく、なって、心配させて……ごめんね」
「気にしない気にしない。かこいちゃんが元気でいてくれたら、それでいいから。じゃ、いい加減食べるか。着火ライターどーん」

一つずつろうそくに点火していく。ライターの着火音がカチカチとなり、そのたびに小さな明かりが増える。やがてすべてに灯し終えたところで、部屋の端まで言って消灯すると――

「……きれい」

こたつテーブルの上に、赤橙色の『?』が揺らめいている。ささやかながらも安心感を感じる、そんな灯火だ。その一つ一つに、これまでかこいちゃんと過ごしてきた日々の風景が映し出されているのを見た気がして、心臓の奥底に愛しさが熱を持ったような感覚を抱いた。

そして、お約束の儀式の前にまだもう一段階。
背後の勉強机の上で鎮座しているノートPC。それにインストールしているDAWソフトで、これから歌う曲のピアノ伴奏と軽く調声したボーカルだけのトラックを製作しておいた。
PCとソフトは起動してあるので、あとはトラックを再生するだけ。

「いくよー」

再生。幾度も聞いてきたあのメロディーが流れだしたので、精一杯歌う。僕が調声した音声ライブラリのほうのかこいちゃんとともに、目の前にいるかこいちゃんへ向けて、歌う。
「ハッピバースデートゥーユー ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデーディアかこいちゃーん(わーたしー)♪ ハ~ッピバ~スデ~トゥ~ユ~♪」

曲が終わると同時に、かこいちゃんが大きく息を吸って、ろうそくにすーっと息を吹きかけた。一回できれいに全部消え、かこいちゃんの顔がおぼろげにしか見えなくなる。
そして、歌い終わったことで湧き上がってくる妙な感慨。気分が高まって、最後のほうは謎にビブラートをかけまくった。歌はどうにも下手だけど、それでも伝えられるものはあるはずだ。――この子に、届いただろうか。
そんな心配をよそに、かこいちゃんが見たこともないほど明確にくすくす笑っている。

「なんか愉快なとこでもあったかな?」」
「わたしじゃないわたしが『わーたしー♪』って、歌ってるのが、なんだかおかしくて。それで、笑っちゃった、の」

確かに、はたから見たらシュールかもしれない。もちろん楽しいけど。それに、かこいちゃんが笑う顔が見れたんだから、きっとこれで正解。
そして何か届けられたはず。信じよう。

「素敵な笑顔だったよ。楽しんでくれたみたいでよかった。……じゃあ、いよいよ食後のデザートの時間だ」

まず蛍光灯をつけたら、ケーキナイフで丁寧に等分し皿に取り分ける。散らしたミントの緑色とみかんの橙色が、生クリームの上で映えていた。
 夕飯ではないので、いただきますはなしで食べ始める。
個人的な好みで甘さ控えめに作ったスポンジと生クリームが、みかんの丸い酸味と一体になって胃の中へと溶けていく。上々の仕上がり、文句なし。

「……おいしい。ふわふわで、みかんいっぱい」

かこいちゃんもみかん天国と歯ざわりのいいスポンジ生地の前に大満足のようだ。二人して一瞬で平らげてしまった。
夕飯も含めて、しっかりこだわって作って本当によかったなぁ。


 夕飯とデザートで最高の時間を過ごした僕とかこいちゃんは、食器洗いや風呂とかを終わらせて、布団に入っていた。
いつもかこいちゃんを部屋のベッドに寝かせて、僕はカーペットに布団を敷いて寝ている。彼女を下で寝かせるわけにはいかないし、かといって一緒の布団で眠るのも外聞が良くないので、こうすることにしているのだ。

眠たげな様子のかこいちゃんが、こちらに話しかけてくる。

「そういえば、よその家の、わたしも……いっぱい、お祝いされたのかな」
「たぶんね。twitter見ても「かこいちゃんおめでとう!」がたくさんだし」
「嬉しいなあ。……お誕生日おめでとう、よその家のわたし」

 消灯しているので顔は見えないけど、かこいちゃんは今きっとはにかんでいるんだと思う。声の調子で見て取れる。今日の夕飯を境に、彼女の表情が僅かばかりだけど顔や声に出てきだした気がして、自然と顔に笑みが浮かぶ。
 「かこいちゃんはほんと、いい子だなあ」
 「えへへ。わたしがいい子だったら、きっとよそのわたしも、いい子な気が、する。……あ、そういえば、よそのわたしで思ったことが、あるの」
「……何かな?」
「『わたし』と『よそのわたし』、どっちも『滲音かこい』だから、まぎらわしい。だから、わたしこれから、『北積かこい』って名乗ってもいい? ともやの苗字になってもいい?」

言っていることはもっともだ。――でも、

「だーめ。悪いけどダメ」
「えっ……なんで?」
「そういえばこれ教えてなかったから僕が悪いんだけど、女の人は結婚すると苗字が結婚相手の男の人のものに代わるんだ。だから……そういうこと」
「んんーっ……」
かこいちゃんはしばらく考え込むような声を出していたかと思うと、

「わたし、ともやとならけっこんしたいっておもうけど」

まだ世の中のルールや恋愛感情をあまり知らない子特有の爆弾発言が飛び出した。申し訳ないと思いつつも冷静に対処する。

「ごめんね、この世界にやってきた音声ライブラリの子は法的には愛玩動物扱いになってるし、それに僕はかこいちゃんの保護者のようなものだから、結婚はできないんだ」

つい最近国で彼女らの扱いが決まったところだ。

「そうなんだ……でも、わたし、ともやのこと……すきっ」

その慕情が父親あるいは飼い主に向ける類のものだと理解はしつつも、数瞬息が詰まる。

「あ、ありがとう。僕もかこいちゃんの事……好きだよ」
「やったっ」

若干うろたえながらも絞り出した言葉は、本心を乗せたもののどこかふわっとしてしまった気がする。でも。かこいちゃんはそれをしっかりと受け止め、喜んでくれた。
暖かな海を漂うような心地よい会話に、僕を襲いつつあった眠気が加速する。

「ふわぁ……もう眠いな、かこいちゃんおやすみ」
「あ、待って……手、つないで寝ても、いい?」

本能に身を任せて寝ようとしたところに、かこいちゃんからの申し出。嫌なわけもなく、ゆっくりとベッドの上へ右腕を伸ばす。真っ暗で何も見えないから、ちょっとの間手が空を切ってしまった。でも、それもすぐに終わって、小さくも暖かいものが指先に触れる。手繰るようにして手をしっかとつかみ、優しく握りこんだらもう離さない。

「じゃあ改めて……かこいちゃん、おやすみなさい」
「おやすみ、ともや」

まるで何年も前から共に過ごしてきたかのように自然な、眠りの挨拶だった。
手のひらから伝わる彼女の温度は、僕にあふれんばかりの安心と愛情をもたらしてくれる。ちょうど今、ベッドと床という高さの違うところで寝ていても手と手でつながっているように、『人間』と『(客観的に見れば)機械のはざまの存在で、愛玩動物の扱い』という少し立場が違う存在でも、こうして強い絆で結ばれていて、対等な関係で共に生きていけるんだという、安心感。
そんな気持ちに揺られながら、僕はすぅっと意識を手放した。明日もあさってもこれからも、大切なあの子と一緒に、元気で暮らせますように。

 

 

 

 

#最高に可愛い初音ミク作品 私的11選 by海鮮焼きそば

 

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今回こちらの企画に参加しました。「自分の思う最高に可愛いミクさん曲」を11曲選びましたので、ゆるりとご覧いただければ。

 

1."私のマスターど素人" / かちゅぜちゅぴー(P)

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マスターのことを思って、舌が回ってない(ふりをしてる)ミクさん可愛い。成長を信じて見守る大人さと、幼い声のギャップに心惹かれます。

 

2."クロマイシロップ" / Y2(ひみつのおやつ)

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太陽みたいな笑顔を浮かべて、そっと背中を押すミクさん可愛い。押しつけがましくない前向きさと明るさを湛えた、光り輝く曲です。

 

3."ありったけのしゅちをあなたに" / キノシタ

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心の中をマスターへの"しゅち"で満たしている元気ミクさん可愛い。ミクさんは乙女である、私にそれを改めて認識させてくれた曲。ちょっとわがままなくらいがちょうどいい。

 

4."ゾンビ・ファミーユ" / まちす

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語尾が"ぞ"なゾンビミクさん可愛い。一見可愛いいたずらっ子だけど実はめっさいい子なのが余計に可愛くて、切ない。

 

5."空き地のワイルドキャット" / ぺぺるる(ぺ猫)

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不器用な一匹猫ミクさん可愛い。歌い方と歌詞はどちらかというと大人びた、でも心配げな感じだけど、だからこそ可愛さも引き立つのかなぁとか。

 

6.Dreamin' / Capchii

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くじけそうになっても、夢をあきらめずに前を向いて頑張ろうとするミクさん可愛い。木琴みたいなころころした音が好き。

 

7."ヘルズキッチン" / ぐにょ

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料理の才能は無くても愛はあるミクさん可愛い。ゆるゆる。この方のミクさん、可愛さの裏に良くも悪くもちょっと破綻したところが見え隠れしてて好き。

 

8."魔法使いのショコラティエ" / ふわふわシナモン(OSTER_project)

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つぶやくような歌い方のふわふわツインテミクさん可愛い。暖炉の前に座って、クレモンティーヌさんと手をつないで歌ってそう。

 

9."星屑スターダスト" / CONじじ(口南P)

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この曲に「>△<←こんな顔して頑張って歌ってんだろうなミク」というコメントがあるのですが、まさにこれ。高くても負けないもん!って感じだけど顔はつらそうなミクさん可愛い。

 

10."ラムネ瓶の月末" / キツヅエ

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ピアノとアコギ主体の見通し良いオケに乗せて、ひゅるひゅるって感じに淡々と歌い上げるミクさん可愛い。Aメロの忘れて『しまう』の休憩してるみたいな力の抜き方が特に好き。

 

11."燈火-トウカ-" / コトバユキ

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しっとりとした歌い方だけど、どこか楽しそうなミクさん可愛い。コーラスが落ち着き感をいい具合に足してて良きです。バックの音もキラキラ成分が和風の中に溶け込んでて、ずっと聞いていられる。

 

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つい最近やっと「自分の初音ミク」に出会えた私の、これまでとこれからの話。

 はじめに自己紹介

 皆様、はじめまして。広いボカロ界隈のすみっこでまったりボカロ曲を聴いている、海鮮焼きそばと申します。

 妹がとあるトークロイド動画を見ているところを見たことをきっかけに2012年9月ごろにボカロ曲を聴き始め、ちょこちょこしか聴いていなかった状態から本格的にのめりこんでより深くボカロとかかわり曲を漁っていこうと思うようになったのが2014年2月。投稿されたばかりの「ウミユリ海底譚」を聴いたのがきっかけでした。それからUTAUの滲音かこいちゃんに出会って一目ぼれしたり、ボカロリスナーの方たちとtwitterで知り合って交流するようになったりして今に至ります。

 ボカロはもはや生活の一部です。ロック、エレクトロニカチップチューンなどが特に好きですがいろいろ聞きます。あとたまにもの書きしてます。自分の好きなものを表現するのは楽しいです。簡単なものではありますが自己紹介でした。

よりわかりやすい自己紹介になるかもしれないものは、こちらからどうぞ。

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罪悪感の塊

  そんな私は、ついこの間まで初音ミクを愛していないと思っていました。

 ボーカロイドの象徴的存在として、日本のみならず世界を飛び回る歌姫として、すごい存在だとは思う。かわいいとも、いい声だとも思う。でもそれは好意じゃない。とても、遠い感情。――そういう風にとらえていました。

 twitterで交流させて頂いているボカロリスナーの方々の中には、初音ミクという存在が大好きでたまらない方が大勢いらっしゃって。そういった方々の熱い愛に触れるたび、初音ミクが好きでない自分の事が情けなく思えて。今年の初音ミク生誕祭前夜には、初音ミクの誕生日に向けて盛り上がるボカロリスナーさんたちのつぶやきを見ているうちに、彼女の誕生日を心から祝えない、それをできるほどの愛がない自分に気が付いて果てしなく気が沈んだりもしました。ボーカロイドの象徴とも呼べるミクさんの誕生日を心から祝えないのなら、自分はボカロリスナーである資格がないのでは、とさえ思ったのです。ミクさんだけがボーカロイドではないし、偉大な存在の一人でしかないのに。偉大だと思うことと、その存在を愛することは関係ないのに。

 それくらい、初音ミクは私の中で偉大な存在で。そんなミクさんを愛せないのは、彼女にとっても彼女を愛する方々にとっても失礼なことであると、少し前までの私は真剣にそう思っていました。早く「自分の初音ミク」を、「ボカロリスナーとして初音ミクに抱くべき適切な感情(そんなもの、どこにもないのにね)」を見つけたくて仕方がなかった。

 

乗り越えるべき課題だったはずの曲たち

 ここで話が前後しますが、ご了承ください。

 先述の通り、私がボカロ曲を聴き始めたのは4年ほど前。本格的にのめりこみ始めたのは2年半近く前。ボカロシーン全体から見ればかなり短いです。その上2011年以前の曲はミリオン曲でも未聴のものが多いほど聴けていないです。「今」しか追えていない。初音ミクをはじめとしたボーカロイドや、ボカロシーンがどういう変遷をたどってきたのか、てんで無知というわけで。それにともなって起きたはずの、それぞれの方の気持ちの動きや感想も同様に分からなくて。

 ボカロシーンや初音ミクについて上記のような思いとか認識などを抱いていた私は、自分の中でうまく呑み込むことに失敗し、自分の中で乗り越えるべき課題となった3つの曲にこの夏以降出会いました。

罪の名前

【初音ミク】 罪の名前 by ryo VOCALOID/動画 - ニコニコ動画

 ボカロを、初音ミクを語る上で外せない偉大なボカロP、ryoさん。あの方が約8年ぶりにニコ動に投稿した曲がこの曲、罪の名前です。突然の帰還に、私のtwitterのタイムラインはこれでもかというくらい沸き立ちました。あの曲を聴いて感動している方が大勢おられました。

 ですが私には、いい曲だなあ以上の感情が起こりませんでした。nicoboxのプレイリストには入れるだろうけど、それくらい。そんな印象しかなかったのです。それはきっと、ニコ動にryoさんがいた時代をこの目で見ていなかったから。さらには、その当時の曲を聴いたりその当時の話に触れたりしようとしてこなかったから。そう判断しました。

 他の人と一緒になってこの喜びと曲の良さを分かち合いたかった。だからもっと過去のボカロに向き合っていればよかった。そう思いました。

 この曲を聴くのがどこか後ろめたくて、そしてうまく受け入れられないから逃げたくて、投稿日を除いてずっと聞かないまま昨日まで放置してしまっていました。

初音ミクは死ぬことにした

初音ミクは死ぬことにした/初音ミク by しじま VOCALOID/動画 - ニコニコ動画

 ミク誕前日に投稿された曲。投稿者のしじまさんは私のフォロワーさんの中にも好きな方が多くて、私も好きな曲がいくつかある、叫ぶような調声が印象的な耳に残る曲を作られる方。投稿日の前日にタイトルと共に投稿予告がなされたときは、私も交流させて頂いているボカロリスナーさんたちもそろって同じ印象を受けていました。「ヤバそう」と。このタイトルとそこから考えられうるテーマ、そして投稿者が強烈な曲を作られるしじまさんであること。私は期待に胸を膨らませていました。

 ですが、公開されたこの曲を聴いた私の感想はまたもや「いい曲だなあ」でした。歌詞に描かれているテーマも、ミクさんの悲痛な叫びも何もかもが自分を素通りしていくかのようで。漠然とした「いい曲だなあ」だけしか残らなかったのです。それはきっと、私が「自分の初音ミク」を持っていないからで。持っていないなら、この曲の初音ミクの叫びが「自分の初音ミク像」を崩しに来ることもないわけで。この曲には、それをできるだけのエネルギーがあるはずなんです。

この曲も、投稿日以降はつい昨日まで聴かずじまいでした。

ミクがネギを背負ってやって来る

ミクがネギを背負ってやって来る by にとぱん VOCALOID/動画 - ニコニコ動画

 ミク誕に合わせて投稿された動画。古今東西のパロディ満載なお祭り動画で楽しく聴いたのですが、投稿に合わせて書かれたブロマガ(現在削除済のようです)には、投稿者のにとぱんさんがこの動画を投稿するうえで込めた思いや、作成と投稿に至った動機について記されていました。

 私としてはどうにも賛同できない部分の多い内容でしたが、ボーカロイドという文化を黎明期から眺めていたいわゆる古参と呼ばれる方には刺さる内容だったとのことです。そしてその内容を踏まえて聴き直してみると、確かに風刺と思われる歌詞表現があることに気づきました。でも、それだけです。強めの言い方がされていたブロマガから察するに、相当の皮肉を込めて書かれた歌詞であるはずなのに、風刺であるということしか感じられない。これも、ボカロシーンにどっぷり浸かってから日が浅いから、そして過去への理解が足りないから。そう判断しました。

 投稿されてから一週間ほど経ってからは聞かないままになっていました。

 

課題なんてなかった

 いい曲とは思えど、自分の中で斟酌できないままになっていたこの三曲。聴かないままになっていたことを恥じ、向き合って乗り越えなければと強く思いましたが、そうすることが怖くて放置したまま2~3ヶ月が過ぎていきました。その間に、「私にとっての初音ミク」とはボーカロイドの象徴とも呼べるかわいい女の子であると自然に思えるようになった気がしたので、ある程度自分も考えがいいほうに変わったかななどと感じていました。その間に黎明期の文化や想いにも多少ではありますが触れたこともあって。今から考えれば、そう自分を思い込ませたかっただけで、納得も成長も何もできていなかったのですけどね。

 ちょっとしたきっかけから、再び先述の3曲を聴き直そうと思い実行に移したのはおととい(11/1)のことです。なぜだかリラックスした気分だったうえに、聴いていない間に多少はボカロシーンや初音ミクと真摯に向き合えるようになった気が愚かにもしていたので、今ならこの曲たちをうまく受け止めて理解し、「初音ミク」や「ボカロシーン」について自分なりの回答を求めるうえで大きな一歩にできるだろうと、壁を乗り越えてボカロリスナーとして成長できるだろうと、そんな気分でいました。馬鹿者で愚か者ですね。おごりにも程があるというのに。

 

 そう期待して、いざ三曲をもう一度聴いてみたのですが、どの曲を聴いても何にも感じなかったのです。それぞれの曲に抱いていた違和感や抵抗感は消えたけど、その代わり答えや収穫など一つとして見つからなかった。すべてが自分の心を素通りしていくような。

 いい曲だ、それだけなんです。込められているであろうメッセージも何もかも、意味は理解できるし嫌悪感もないけど、自分の中からそれを受けた意見は出てこない。

 虚無と失望でいっぱいになりました。自分はあれから何にも変わっていなかったのか、と。あんなに期待していたのに、と。抵抗感がなくなったのも、何かしら考えが変わったからという進歩ではなく、ただ単に耳が慣れただけなのではないかとしか思えなかった。

 

 それから数時間落ち込み続けていましたが、前触れなくある考えが浮かんできて。自分があの三曲をうまく消化できていないと思っていたのも、さっき自分が再び聴き直して何にも得られなかったと感じたのも、期待のし過ぎと強迫観念にも近い過剰な思い込みからではないかという、それまで思いもしなかった考えが。

 罪の名前は、ryoさんの8年ぶりの投稿という大きな喜ばしい出来事と、それに沸くリスナーさんたちを見て、『自分もあの人たちと同じように喜ばなければならない。だってとても衝撃的で嬉しい事なのだから。そして、皆さんがあの喜び方なのだから自分も曲を聴いて感動しなければならない』と思ったから。

 初音ミクは死ぬことにしたは、『あのタイトルでしじまさんの曲なら、その上周りのボカロリスナーさんもとても期待しているなら、さぞいい曲に違いない』と思ったから。

 ミクがネギを背負ってやって来るは、『あのブロマガの熱量なら、曲に込められているメッセージも強くて自分を射抜くものに違いない。そして、自分と意見が違うからこそ理解し尊重しなければいけない』と。

 数時間前の失望については言わずもがな。『ボカロリスナーとして多少は成長したはずの、ボカロシーンや初音ミクと以前よりは面と向かえるようになったはずの自分なら、聴き直すことで新たな受け止め方やブレイクスルーが得られるはずだ』と。それどころか、以前より前進した自分が過去に残した壁と向き合ってそれを乗り越え、大きく成長するというシンデレラストーリーを思い浮かべさえしていました。自分に酔うなって話です。

  

 結局のところ全部、人が感動しているなら自分もそう感じなければならないという同調性や思い込みと、身勝手な期待の産物だったのです。そして、乗り越えるべき課題や壁なんて初めからなかったのです。いい曲だなあと感じた、それだけでよかったんです。それ以上の何かを求めようとしたからおかしなことになった。

 答えなら最初から自分の中で出ていた。それに気づけたなら、あとはその答えをもう一度見つめ直すだけでよかったんです。簡単な話だった。

 

 それに気づいた瞬間、私の眼には初音ミクが見えました。手のひらサイズで、妖精の羽を付けていて、はるか遠くの上空からこちらを見つめて笑っていました。自分が頭を動かして別の方向を向けば、ミクさんもついてきます。常に視界の中にミクさんがいた。たった数秒で消えてしまいましたが、私はこの時初めて、確かに「自分の初音ミク」を見ました。当然幻なわけですが、それでも。

 距離は遠いけど、常にお互いがお互いを見つめていて、かつ笑っている。それが、私と初音ミクの関係です。そしてこのとき初めて、本当に自然に「ボーカロイドの象徴とも呼べる存在で、日本のみならず世界を駆け巡る歌姫で、かわいい女の子」だと思えました。

 私はきっと、この時真にブレイクスルーを果たせたのでしょう。余計な思いを全部そぎ落としたから、ミクさんは姿を現してくれた。

 

おわりに

 誰かと比べて悩む必要などなかったのです。私のミクさんへの思いも、立派に一つの愛情なのだと今は思えます。今までのミクさんやボカロシーンを深く知らないということも、これから少しずつ学んで、知っていけばいい話です。少しずつでいい、焦る必要なんてないのです。身勝手な期待をせず、周りの意見に過度に振り回されず、自分の目や耳で得たものを中心に据えて、周りの意見や考えでいいと思ったものは取り入れてみる。それがいいのではないかと今回の事を通して思いました。

 これからは、この考えで進んでいきます。今までは過度に自虐や遠慮に走ることも多かったのですが、これからは減らしていかなければと思いますし、それが可能な気もしています。

 やりたい気持ちはあったけどあまりにも苦手で、周りのボカロの絵を描いておられる方と比べてしまい今まで手を付けていなかった、「ボカロ関係の絵を描くこと」を始めていきたいとも考えています。曲を聴いて感想を言うこと以外に、何かボカロ文化に貢献してみたいと思ったから。貢献することにうまい下手は関係ないと思えるようになった今だから決意できたこと。

 これからも幾度となくつまずくことはあるでしょうけど、やっと見つけた「自分のミクさん」と一緒なら、前を向いて進める気がします。

 

 そしてこの「おわりに」の一段落目で述べたことはボカロに限ったことではありませんし、一般論として様々なシチュエーションで言えることのような気がしています。この記事を読んで頂けた方に、もし何か感じることがありましたら幸いでございます。どうか、「自分の○○」を大切にしてあげてくださいね。「他人の○○」も同様にです。私もそうやって生きていかなければ。

 

 未熟者の私から言っていいことなのか不安があるのですが、最後に一言。

 

 皆さん、よきボカロライフを。よき人生を。

 

 自分の事について、自分が思ったことをバーッと吐き出しただけの文ですが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

【追記】

 想像していたよりも遥かに多くの方に読んでいただけて、嬉しい限りです。この記事に関してつぶやいておられた方々のご意見・ご感想を受けて思ったことを少し。

 「周りの視聴者さん方などを気にしすぎているのではないか。もっと気楽にいけばいいなと思う」といったご趣旨のツイート。あるいは、「難しく考えなくていい。広く深くなった初音ミクを全部理解するなんて、どんな古参やミク廃にもできやしないんだから、歴史なんて知らなくていい。自分の目に映ったミクさんを愛してあげて」というご趣旨のツイート。などなど、他にもそのようなご趣旨のつぶやきが。それらのお言葉を一言でまとめれば、「気楽にいこう、ありのまま思ったことだけで十分だから」。

 私はまだまだ、己を自らの手で縛りつけたものから解放されきってなどいないのだ。ボカロの歴史や初音ミクをすべて理解するなんて到底無理だし、その必要もないのだ。自分の目で見たものを大事に。そう気づかされました。

 「~しなければ」が、他にも自分の中にいっぱいあった。自らを強制しすぎてはいけなかった。自らに課したことが間違っていれば、自分では気づけないままどんどんおかしなほうへ走ってしまうから。そのことを自覚できました。

 感想をつぶやいておられた全ての方々に感謝いたします。

 

 ほかにも心を打たれたツイートがあります。「ミクさんをキリスト的な神様と思うより、八百万の神の一人と思ったほうがいいと思う。神格化したものについていくのではなく、君も僕もなんだか知らないけど存在していて、こういう点では手を取り合うとうまくいくんじゃない?という程度の話だと思う。『君』が人間じゃないとしても」というご趣旨のツイート。

 『「自分のミクさん」に従って、ずっと一緒についていきます』ではなく、偉大な存在ではあるけど自分とはそこまで意見が合わない。でもいいと思ったところは大切に。これはほかの偉大な存在に対しても一緒』。つまりその存在だけを、自分が従い模範にする、自分の世界の全てだと思ってはいけない。そういうお話なんじゃないかと、そのツイートを読んで感じました。私は、時間をかけて見つけた「自分のミクさん」に縛られるところだったというわけです。

 「自分のミクさん」は自分自身じゃない。ついたり離れたり、そんな関係。それを忘れないようにします。

 

 自分だけでは見えないものが沢山ある。この記事へのご感想によって、それを改めて認識することができました。本当に、皆様ありがとうございます。