つるつるつらつら。

ボカロ関係で想ったこととかを主に綴ります。

迷い子オルガンは唸る【没食らった劇脚本の供養】

 以前、入っている演劇サークルの公演用に提出して多数決の前に屈した脚本です。提出の直前までほとんどできてなくて実質二日ほどで書きました。短い・掘り下げが甘い・説明過多と粗々ですが、暇つぶしにでもどうぞという気持ちで放り投げます。

 

本編

〈登場人物〉

レミー(男):生まれた直後に両親に捨てられ、孤児院も併設している教会の神父エディに引き取られて生活している少年。オルガンを弾くのが大好きだが、本人自体の技量はさほど高くない。

 

エディ(男):キリスト教会の神父。争い事や面倒事が嫌いな、穏やかそのものといった性格。神父としての力を生かして怨霊や悪魔を祓ったり、孤児院も営んだりと日々あわただしく働いている。

 

オルガン:あるオカマの霊魂が天国にも地獄にも行けずさまよった果てに、居心地のよさそうな教会のパイプオルガンに住み着いた結果、オルガンは感情を持ち喋るようになった。ただし彼女がパイプオルガンに憑依した際に、それまでの記憶が消滅している。

 

 

 

 

 

真夜中。女性の霊魂、下手からピンスポットとともに登場。

 

 

霊魂:死んじゃったのはこの際しょうがないとして、あたしこれからどうすりゃいいのよ・・・これ、いわゆる亡霊ってやつでしょ。さまようのももう飽きたし、しばらくは居れそうなところを探さなきゃよね・・・。

 

   とぼとぼと上手に置いたパイプオルガンのそばまで歩く。

 

霊魂:あら、このパイプオルガンいいかも!よーし、なんだか高級そうだし取り憑いちゃえ。えいっ!

 

パイプオルガンの蓋を開けようとするが、パイプオルガンの持つ謎の力に阻まれて引き離されそうになる。

 

霊魂:せっかく、良さそうなところ見つけたんだから、負けないわよ・・・んぐっ、きゃあ~!

 

    霊魂、悲鳴を上げながらも、強引にパイプオルガンの中へ入り込み、蓋が落ちるように閉まる。

    ピンスポットCO。

 

    明転。

    レミー、上手より眠そうに登場。

    時刻は朝。

 

レミー:ふわぁぁぁ・・・(あくびをする)眠いなぁ。

オルガン:あ、ねえねえそこの坊や。おはよう。

レミー:え⁉どこどこ、誰⁉

オルガン:ここよ、ここ。そしてあたしはただのパイプオルガンよ。

レミー:オ、オルガンが、しゃべった・・・?(後ずさる)

オルガン:警戒しなくていいのに。まあなんであたしがしゃべれるのかとか全然分からないんだけど、怖がらなくても大丈夫だから。たぶん。そのかわいい顔が台無しよ。

レミー:いや、それ余計に怖いよ!・・・でもなんだか悪い人じゃなさそうだから、ま

いいか。よろしくね。オルガン弾くの大好きだし、もうすぐ初めてピアノのコンクールに出るし、これからもたくさんお世話になると思う。(声の調子を落として)コンクール・・・あいつにだけは負けたくない・・・

オルガン:ん?何かあった?

レミー:あっ、いや、なんでもないよ・・・えへっ。改めて、これからよろしくね。

オルガン:ええ、こちらこそよろしくね。じゃあ、まずはあなたのことから聞こうかしら。

レミー:うん、まだ名前も言ってないしね。僕はレミー。産まれてすぐに父さんと母さんに捨てられたみたいで、この教会の神父のエディさんが引き取ってくれたんだ。ここ、孤児院もやってるから。

オルガン:さらっと言うのね・・・ご両親に会いたいとか思ったりしない?

レミー:ぜーんぜん。だって覚えてもいないし。それに、ここでの生活は楽しいから。

オルガン:あなたいい子ね・・・ううっ、ぐすっ(涙声)

レミー:泣くようなことでもないと思うよ⁉って、目も何もないのに泣けるんだね・・・しかも僕のこと見えてるんだよね・・・

オルガン:その上声も聞こえるー!

レミー:ほんっと、色々謎だ・・・まあ考えてもわからない気がするけど。それより、エディさんを呼んでくるよ。まだ挨拶も何もしてないでしょ?

オルガン:ええ、そうね。お願いするわ。

 

    レミー、下手まで歩き、大声でエディを呼ぶ。

 

レミー:エーーディーーさーん!ちょっと礼拝堂まで来てくれませんかー!

 

    エディ、下手から小走りで登場。

 

エディ:そんなどでかい声出さずとも聞こえとるわ!で、なんじゃいったい・・・

レミー:礼拝堂のパイプオルガンがなぜか突然しゃべれるようになってたから、エディさんにも紹介しておかなきゃと思って。

オルガン:どうもー!今日からお世話になるパイプオルガンよー!ちなみに性別はヒ・ミ・ツ♡

エディ:また面妖な感じの奴だのお・・・ん?

 

    エディ、ピアノを覗き込む。

 

レミー:エディさん?どうしました?

オルガン:や~ん、そんな間近から覗き込まれたら、あたし、照れちゃう~!

エディ:・・・はっ、これは!

 

    エディ、飛びのくが後ろ向きに転倒する。

 

エディ:痛たた・・・とにかく、これはいかんのだ!

レミー:いったい、何がいけないんですか?説明をお願いします。

エディ:すまないがそれはできん。あまりにも恐ろしいことである上に、君が聞いたらむしろそのほうが良いと思いそ・・・

オルガン:ねえ、何が起きてるかわからないけど、結局これどうにかできるの⁉私の話だからそれが一番気になるんだけど!

エディ:その点は安心してかまわん。時間は多少かかるが、エクソシストでもあるわしの手で解決できることだから。

オルガン:それならよかった・・・まあ何から助かったのかさえ分かんないけど。

エディ:悪いがそのあたりの事は詮索してくれるな。知らないほうがいい事実もある。これはレミーにも対しても言っているぞ。

レミー:(やや不服そうに)は、はい・・・

エディ:とにかく、わしのほうで穏便にけりをつけておくから気にしないでくれ。ではわしは朝食を作るから。あと早めに寝巻きから着替えるんだぞ、レミー。

 

    エディ、下手へ退場。

 

オルガン:結局何だったの、あれ・・・もしかしてエディさんって案外変わり物だったりするのかしら?

レミー:そんなことはないはずなんだけど。それより、エディさんがさっき言いかけてたことが気になるなー。

オルガン:あら?何か言ってた?

レミー:言ってたね。「君が聞いたらそのほうがいいと思いそう」って。最後のほうはオルガンさんの言葉であまりよく聞こえなかったけど。

オルガン:ふーん、そうだったのね。自分がこれからどうなるかが気になりすぎてさっぱり聞いてなかったわ。・・・それにしても、レミーは得をしそうだけどあまりにも恐ろしい事って、何なんでしょうね?

レミー:うーん・・・(しばらく考える)今考えても答えは出ない気がするし、とりあえずコンクールの練習しようかな。オルガンのことで僕が得をするのなら、恐ろしいことがあっても我慢できる気がするけどね・・・

オルガン:君は本当にオルガンが・・・つまり私が好きなのね。いいわ、お姉さんがいくらでもからかってあげちゃう。

レミー:からかわれるんだ・・・ってそれより、確かにオルガンは大好きだけどそれとこれとは別だよ!

オルガン:うふふっ。もっちろん、ちょっとした冗談よ。まあそれはいいから、早く弾いちゃいなさいよ。話すのは演奏しながらでもできるわよね?

レミー:うん、そうする。

 

    レミー、オルガンのふたを開ける。

    オルガンの上に置いた楽譜を取ってふたの内側に置く。

    椅子に腰かけ、演奏を始める。曲はシューベルト『魔王』。

 

オルガン:ずいぶんと縁起でもない曲を弾くのねー!おまけに教会関係なさそうだから、選曲が少し意外。

レミー:特に意味なんてないよ。教会にこの曲の楽譜が置いてあるから、それだけ。

オルガン:なるほどね。そういえばレミーはなんでオルガン弾くのが好きになったのかしら?

レミー:よく覚えてないんだよね・・・生まれた時からあったから、たぶん自然とだとは思うけど。・・・あれ?

オルガン:何かあった?

レミー:いや、いつもよりずっとうまく弾けてる気がして。なんだかオルガンと一つになってるみたい。

オルガン:普段より集中できてるとか?それとも、もしかしてあたしパワーだったりしちゃう?原理はさっぱりわかんないけど!

レミー:割と真面目にオルガンさんパワーだったりしちゃうかもしれない。僕は普段通り弾いてるだけだし、今日突然ってことは、タイミング的にそれはあり得ると思う。

オルガン:だとしたら、私ってすごいのね。やるぅ!レミーは私に感謝することね。

レミー:うん、本当にありがとう!おかげでコンクールでもいい成績が取れそうだよ。

オルガン:そういえばちょっと前に言ってた気もするけど、コンクールってどんな感じなの?

レミー:三週間後くらいにここでやるんだ。小さなコンクールだけど、ちょっとどうしても負けられなくて。

オルガン:何?ライバルとかそんな感じ?

レミー:ライバルというよりは・・・見返してやりたい、って感じかな。近所に住んでる同い年のロイクってやつがガキ大将で、おとなしいからってしょっちゅう陰でいじめられてるんだ。池に突き落とされたこともある。そいつもオルガンやっててしかも僕よりうまいから、このコンクールで勝ってこれ以上ちょっかいをかけられないようにしてやりたいんだ!

 

    レミー、演奏を止める。

 

オルガン:そういうことが・・・でも、私の力を借りてそのユーゴって子に勝っても、それはインチキだってことはわかってるわよね?

レミー:それは、もちろん。でも、これは自分を守るためだからしょうがないんだ。悪い事じゃないんだ。それにコンクールでこのオルガンを使うのは前から決まってたことだし、僕がわざとインチキをしようとしたわけじゃない。・・・使う予定のオルガンが、そのつもりもなく偶然僕に力をくれただけ。(震えた声で)・・・ね?何も、悪い事なんて・・・してないでしょ?

 

    オルガン、沈黙。

 

レミー:・・・そうだと言ってよ。僕には、他の方法なんて思いつかなかったんだから。

オルガン:確かに、レミーの気持ちはあたしにもわかる気がするわ。でも、そうやって自分にうそをつき続けて大丈夫だって言い張っても、きっといつか天罰が下るんじゃないかしら。これはオカマの勘よ。当たる確率はなんとっ、驚異の50パーセント!

レミー:それ、ただの当てずっぽう・・・でもオルガンさんの言うとおりだよ。自分が悪いことをしようとしているって、よーくわかってる。でも僕は、天罰を受けるのは覚悟でインチキしちゃおうと思ってる。今のままロイクの暴力に耐えているのは、もう、限界なんだ。

オルガン:わかったわ。あたしには止められる気がしないからもう止めないけど、認めもしていないからね。そこんとこ、よろしく。

レミー:・・・ごめんね。きっとエディさんの言ってた「恐ろしい事」が僕への天罰になるんだろうなと思うから、逃げずに恐ろしい目に遭うことにするよ。・・・あっ。

 

    レミー、舞台中央奥の上側を見つめる。

 

レミー:時計見てなかった!もう着替えてこなきゃ!・・・また後でね!

 

    レミー、慌てながら楽譜やオルガンの蓋などを元のように戻し、足早に下手へと退場。

    暗転。

 

    明転。

    エディ、木の杖を手にして下手より登場。暗転前のシーンから5日ほど経過。

 

エディ:そこのオルガン・・・いや、オルガンに憑依している亡霊よ。こんな夜分にすまないが、話がある。

オルガン:え?亡霊⁉ど、どういう・・・なんかよくわかんないけど、その様子だと、結構重大な感じの用事だったり?

エディ:そうだとも。君の存在にかかわることだ。

オルガン:存在・・・存在・・・あっ、もしかして私を始末しようとしてるわけ?

エディ:断じて始末などではない。これは悪霊払いだ。図らずして黒幕のような立ち振る舞いになってしまっているのは自覚済みだが、わしは一人の聖職者である。イエス様に背くような真似はせんよ。

オルガン:・・・りょーかい。まあ、一番聞きたいのはあたしはいったい何なのかってことなのよね。どうもあなたにはわかっているみたいだから。

エディ:よかろう。隠し通すつもりだったが気が変わったんでな。自分の根源にまつわることを素性のよくわからん老人だけが知っているなどというのは、たいそう気持ち悪かろうし。――結論から言えば、君は亡霊だ。それも、天国と地獄のどちらにも行けずじまいで、この世をさまようしかなくなった亡霊だ。

オルガン:じゃあ私はもともと人間で、何の変哲もないオルガンに突然感情と言葉が芽生えたというわけではないのね?

エディ:ああ、それは違う。ここからは推測だが、君は亡霊としてゆく当てもなくこの世をさまよった果てに、この教会のパイプオルガンを見つけて憑依したということではなかろうかと私は考える。

オルガン:なるほど・・・でも、ちょうどいい場所を見つけたから取り憑いたというだけでなぜ恐ろしいことになるの?それと私がオルガンに取り憑く前の記憶がひとつもないのはどうして?

エディ:まず前提として、天国にも地獄にも送られない可能性のある魂というのは、生前の行いが「どちらかと言えばやや悪人寄りだが、根は善人で仕方なく軽微な罪に手を染めた」と判断されたものである。こういった者は、死者を天国と地獄のどちらに送るかを決定する審判役が答えを出しかねて、審判を放棄される場合がまれにあるのだ。

オルガン:どっちに送るか決められなかったから、お前は亡霊としてだが現世におれ、ということ?

エディ:左様。で、そのさまようことになった亡霊は本来現世にいてはならぬものである上、生前の行いだけで判断すればやや悪人寄りであるため、悪霊の分類になる。そんなものが現世の物品などに取り憑いてしまえば、その取り憑かれたものは悪に蝕まれ、次第に調子が悪くなっていき、しまいには辺りに邪気を撒き散らすこととなる。そして、その邪気によって、そのものなどを日ごろから使っている人のみならず、その人の周りにいる人まで侵されて、最悪の場合は死に至る可能性がある。

オルガン:どこまでもひどい話ね・・・

エディ:まあここまでが通常の場合なのだが、今回は少し勝手が違うようでな。結論から言えば、君がオルガンに憑依するまでの記憶がないのは、このオルガンが教会という聖なる力が強く集まる場所にあるため、その力を吸収したことによって、悪霊である君が憑依してこようとした際に対抗したからだろう。君はかろうじてオルガンに憑依することに成功したが、強い聖なる力を受けたことによって脳機能に損傷を負い記憶喪失になったと見える。

オルガン:なんという教会パワー・・・あれ、大体のことはわかったけど、そういや私が憑依してからレミーのオルガンの腕が上達したって話、この件と関係あるのかしら?

エディ:関係大有りだ。今もオルガンの中では聖なる力と悪霊の邪気が衝突、そして拮抗しており、それによって光と闇の混ざり合った強大な気が生まれ、オルガンの一番の愛用者であるレミーは、邪気が多く含まれているそれを大量に浴びているという話だ。・・・ほかに聞きたいことはないかね?

オルガン:ええ、もうないわね。教えてくれてどうもありがと。

エディ:・・・では、悪霊を払ってよき存在へと変え、天国に送る儀式を始めよう。

オルガン:あっ天国に行けるのね⁉ありがとう、愛してるわ!

エディ:ええぃ黙っとれ!・・・で、一度では君を払えないため、何度かに分けて行う。――ゆくぞ。

 

    エディ、杖を回転させながらさまざまな方向へ振り回す。同時に、呪文を唱え  始める。

 

エディ:罪なき民の持てる貴き品を蝕む悪しき御魂よ、神の子イエス様のお教えとお力を伝えし我の清らかなる力をもって清め給え!

オルガン:ひえ~っ!

 

    エディ、詠唱が終わると同時に、杖で床を強く突く。

    そして脱力し、杖を支えにふらふらと立つ。

 

エディ:(かすれた声音で)歳だろうか、一回でずいぶんと力が抜けてしまうわい。

オルガン:お疲れ様、ゆっくりお休みなさい。お年寄りは早い時間に寝るものよ。

エディ:気遣い助かる。万全の状態でないとうまく払えそうにないのでな、次は4,5日後になりそうじゃ。ではな。

 

    エディ、ゆらゆらと下手へ退場しようとする。

 

オルガン:あ、待って!聞きたいことをひとつ忘れてたわ!

エディ:いったい何じゃ。手短に頼みたい。

オルガン:・・・レミーには、このこと言わないほうがいい?

エディ:何があろうとも言わないようにお願い申し上げる。・・・レミーがいじめっ子を見返すためにコンクールでその子に勝とうとしていること、そのために今の状態のオルガンを利用しようとしていること、わしが止めようとしても聞くはずがないこと、すべて知っておる。だからこそ、あの子にはこれ以上何も悟らせないまま、かりそめの言葉でなだめて真実に気づかせないまま、穏便に事を終わらせたいんだ。どうか、協力してはくれまいか。・・・わしには、これ以外の方法など思いつかなかったのだ。

オルガン:エディさん・・・ええ、了解するわ。

エディ:では、今度こそわしは寝る。よい夢を。

オルガン:お休みなさい。

 

    エディ、上手に退場。    

 

オルガン:これ、両方に味方しなきゃいけない感じ?・・・どっちもいい子でいい人だし、

まあ構わないんだけど、ちょっと面倒だわね。

 

    暗転。

 

    明転。レミーがオルガンを弾いている。

    曲はブルグミュラー『素直な心』。

    コンクール五日前。

 

レミー:この曲『馬鹿』って題名なんだけど、遠い東のほうにあるニホンって国だと『素直な心』って訳されてるんだって。同じ曲なのに意味が全然違ってて面白いよね。

オルガン:へえーっ。確かに、面白いわね。・・・あっ、ちょっと思いついたから聞くけど、レミーはこの曲、どっちの題名が合ってると思う?

レミー:きれいな曲だから『素直な心』のほうが合ってる気がするけど、この曲を作った人が『馬鹿』って付けたのならその理由があるはずだよね・・・うーん、じゃあ、そういうオルガンさんはどう思ってるの?

オルガン:そのままの意味で、素直でいるのは馬鹿なことだって言いたい・・・とか?それとも、表面だけ素直できれいな感じにしてて実はろくでもない奴が、一番馬鹿だ・・・とか?いや、さすがに飛躍しすぎね。まあ作曲者じゃないからわからないし、どっちとも取れるってことでいいんじゃないのー?

レミー:あーっ、答え出さずに上手く逃げようとしてる!ずるい!

オルガン:これが賢い大人の生き方よ。

レミー:そんなのが大人なら、僕もうずっと子供のままでいいかも・・・あれ?

 

    演奏が止まる。

 

オルガン:あら、何かしら?

レミー:なんだか音がおかしい気がして。前に調律師さんが来てからそこまで経ってないんだけどなあ。

オルガン:ぎくっ。・・・き、気のせいよ。

レミー:その「ぎくっ」って、何・・・?

オルガン:ぎくぎくっ。・・・ともかく、このすごーく立派で美しいオルガン姉さんにそん

なおかしなことが起こったりするはずはないの。わかる?

レミー:もちろん、わかってるよー(棒読み気味に)

オルガン:そうよねー!じゃあ、演奏の続きを始めましょ?気分転換で弾いてるんだったら、そういう妙なことは考えずに弾くものよ。

レミー:なんだかうまく丸め込まれた気がするけど、気にしないでおこーっと・・・じゃあ、続きからね。

オルガン:ええ、どうぞ。

 

    演奏が再開される。

   『素直な心』を先ほど止めたところから流す。

 

オルガン:そういえば、なんだかオルガン上手くなってない?私のパワーとは関係なく。

レミー:今までよりも練習頑張ってるからね。もしオルガンさんの力が何かの理由でうまく出なくても、何とかできるようにって。あいつに負けたらどんなことになるか、わからないから。

オルガン:それなら自分の実力だけで、って言っても、聞かないわよね・・・

レミー:うん、絶対に聞かない。オルガンさんが止めてきても、大好きなエディさんが止めてきたとしても、ぜーったい。それに、これでロイクに勝てばもうこれまで通りオルガンを楽しんで弾くから。悪いことするのは、このためだけだから。・・・だから、だから・・・

 

    弾き方がだんだん弱々しくなり、演奏が止まる。

   『素直な心』FO。

 

レミー:簡単めな曲弾いて気分転換しよっかなーとか思ったけど。全然気分転換になってないなあ。

オルガン:きっとレミーには悪役の素質がないのよ。覚悟が決まっていればそんなことに

はならないはずだわ。

レミー:そうかもね。でも僕はあきらめないよ。確かに悩んでたりはするけど、もうすぐ本番だから早く吹っ切れなきゃ。

オルガン:意志が強いんだか弱いんだか。まあ、今日はもう練習なんてせずにゆっくり休んだほうがいいんじゃない?いい演奏はいい気分からってよく言うでしょ?

レミー:聞いたことないけど、そうかもね。

オルガン:そうかもじゃなくて、そうなのよ。

レミー:はいはい。でも今日は早く寝たほうがいいって言うのは正解だと思う。じゃあ、また明日ね。

オルガン:ええ、明日は元気な顔で来ること、いいわね?

レミー:うん、わかった。

    

レミー、上手へ退場。

 

オルガン:頑張りなさいよ、かわいい意気地なしさん。

 

    暗転。

    エディ、上手から登場。

    コンクール本番当日。

 

エディ:もう本番とは、早いな・・・では、最後に今日の予定の確認をするぞ。

オルガン:ええ。これまでの四回の悪霊払いでほとんど浄化できたけど、レミーが本番に挑むときに違和感を覚えにくいように、完全には払わないでいるのよね。

エディ:であるからして、レミーの演奏が終わるのに合わせて、コンクールの司会進行を務めるわしが拍手などに紛れて悪霊払いを行うという手はずだ。いいな。

オルガン:大丈夫よ。では、よろしくね。・・・それから、さようなら。ここでの生活は結構楽しかったわ。直接言えないのが心残りだけど、レミーに今までありがとうと伝えてほしい。

エディ:こちらこそ、子どもたちの相手をしてくれてありがたかった。ではな。天国に行ってからも、達者でな。 

 

    エディ、下手へ退場。

 

オルガン:これでいよいよ天国行きね・・・!もし審判役とかいうのに会えたら、あたしのオカマパワーでとっちめてやるんだから!

    

    暗転。

 

 

 

    下手奥側にいるエディにスポット。

 

エディ:続きまして11番、レミー・べニックス君です。

    

    スポットCO。

    同時に、レミー、楽譜を手にしてピンスポットとともに下手より登場。拍手の音。

    舞台中央で一度止まって客席に向き直り、深く一礼。

    オルガンの前まで行ったところで、オルガンをやさしくなでてから楽譜をセットし、『魔王』を弾き始める。

 

    しばらくして、オルガンの音量が露骨に不安定になり始める。レミーの弾き方も異常に激しい。

    ホリゾントライト(薄紫)FI。

 

エディ:これは、もしや天罰が・・・いかん!

 

    客席がざわめき始めたところで、エディは慌てて悪霊払いを始めようとする。

    ホリゾントライトを暗い紫色にする。

 

エディ:罪なき民の・・・うっ!

 

    エディ、邪気を浴びて倒れこみ、腹を抑えてうめく。

    その直後、レミーがとうとう絶叫を上げて椅子から転げ落ちる。

    『魔王』CO。

 

エディ:う・・・うぐっ・・・レミー・・・

 

    客席にいた人々が逃げ惑う際の叫び声と、地響きのような足音。

    それらがやがて止んだころ、エディが何とか起き上がって動かないレミーのも      とへ歩き、肩を抱きしめて揺する。

 

エディ:レミーーー!レミーーーーー!息はあるか!わしの聖職者としての力をすべてささげてやるから、目を覚ませ、レミーーーーー!

オルガン:ねえ、それよりあたしはどうなるの!早く天国行きたいのよ! 

 

    ピンスポットCO。 

    強風の音と、不気味な低い笑い声。閉幕。